早いもので今年ももう大晦日である。年末はとりあえず二十八日まで仕事をこなしていたが、祝日やら土日が変なところで入ってくるので何だかいまひとつスッキリしないまま終わった感じ。
仕事の調子と読書の調子というのはけっこう比例するところがあって、そんなわけで今月は読書も捗らず。ま、本当の理由は風邪をこじらせていたのと忘年会のほうが大きいんだけど。
ちなみに今年の読書量は百冊弱といったところで昨年並み。全盛時の読書量には遠く及ばないものの、この数年では悪いほうではなく、だいたい月七~八冊といったペース。これ以上読むとなるといろいろと犠牲にする部分も出てくるので、今の生活リズムだとこのあたりが限界のようだ。
さて、今年最後のブログ更新は、毎年恒例の「極私的ベストテン」。管理人が今年読んだ小説の中から、刊行年海外国内ジャンル等一切不問でベストテンを選ぶというもの。なんと今年で九回目、ということはブログも今年で九年目ということで、我ながらよく続いているなぁと自分を褒めつつ今年のベストテンどうぞ!
1位
大河内常平『九十九本の妖刀』(戎光祥出版)2位
連城三紀彦『夜よ鼠たちのために』(宝島社文庫)3位
トム・ロブ・スミス『チャイルド44』(新潮文庫)4位
ピエール・ルメートル『悲しみのイレーヌ』(文春文庫)5位
ヘレン・マクロイ『あなたは誰?』(ちくま文庫)6位
橘外男『私は呪われている』(戎光祥出版)7位
小松左京『石』(出版芸術社)8位
ケン・リュウ『紙の動物園』(新ハヤカワSFシリーズ)9位
蘭郁二郎『怪奇探偵小説名作選7 蘭郁二郎集 魔像』(ちくま文庫)10位
ジョルジョ・シェルバネンコ『傷ついた女神』(論創社) ベストテンを組んでみたものの今年は泣く泣く圏外に落とした作品が多く、そういう意味では昨年に比べると、好みの作品に多く出会えた一年といえるかもしれない。
そんな激戦の一年で1位に選んだのは、大河内常平『九十九本の妖刀』。「珍本ミステリ全集」からはこれまでも魅力的な作品は多く出ていたが、発想の面白さやトンデモ度の高さに比べてどうしても完成度が劣るため、ベストテンに入れるところまでは至らなかった。本作の場合、日本刀に絡む独特の世界観が爆発しつつも、きちんとミステリの体裁も保っているのがミソ。結果的に類を見ない伝奇ミステリの傑作とあいなった。まあ、あくまで管理人のベストワンなので、人にはおすすめしないけれど(笑)。
2位はこの数年の極私的ベストテンの常連になった連城三紀彦の短編集。今年は
『人間動物園』もベストテン候補だったのだが、同じ誘拐物の短編「過去からの声」があまりに良かったので、こちらの短編集を優先した。
3位は遅ればせながらの読了。ソ連という体制のなかで苦しむ個人の生き様がリアルに描かれるが、そこにミステリ的サプライズをきっちりと噛み合せているのが見事。
4位は今年の話題作。見立て殺人やプロットの妙や猟奇的な部分など、注目すべきところは多いが、結局優れた警察小説という評が一番ぴったりくるんではなかろうか。
5位は管理人お気に入りの作家の一人で、本作は狙いに狙った趣向が鮮やか。この数年、安定して紹介が続いているのは嬉しい限りである。
6位も「珍本ミステリ全集」からランクインの一冊。こちらはミステリというより完全に伝奇小説の世界だが、化け猫の話でここまで盛り上がるとはなぁ。プロットには残念なところもあるのだが、テンションの高さで買い。
7位から9位は短編集を固め打ち。まず7位は久々に読んだ小松左京のホラー系短編集。SFファンには何を今更なのだろうが、あらためて氏の巧さを痛感した一冊。どれをとっても素晴らしいが、とりわけ「くだんのはは」と「牛の首」はお気に入り。
8位はSFながらノスタルジックな味わいが感じられる短編集。ブラッドベリにも通じるようなウェットなところも好みである。
そして9位は古典どころ。海野十三同様、探偵小説とSF小説をまたにかけた才人だったが、若くして亡くなったのが惜しまれる。
10位は珍しやのイタリアン・ミステリ。ノワールやハードボイルド的な味わいがメインだが、主人公の設定がとにかく秀逸。本作だけでいうと正直ベストテンからはちょっと落ちる印象なのだが、これが忘れられるのはあまりに惜しいということで、おまけでランクイン。
上で書いたように、今年のベストテン選びは非常に悩んだ。特に惜しいものを挙げておくと……
アーナルデュル・インドリダソン『緑衣の女』、
A・E・コッパード『郵便局と蛇』、
フェルディナント・フォン・シーラッハ『禁忌』、
ロバート・ブロック『予期せぬ結末3 ハリウッドの恐怖』、
戸川昌子『黄色い吸血鬼』、
ダニエル・フリードマン『もう過去はいらない』あたりか。
この辺はその日の気分で変わる可能性もあるので、後日ベストテンを選んだら普通にランクインしてもおかしくないレベル。気になった方はぜひこちらも読んでいただければ。
また、評論での収穫は、
霜井蒼『アガサ・クリスティー完全攻略』、
紀田順一郎『乱歩彷徨』、
横田順彌『近代日本奇想小説史 入門篇』、
浅木原忍『ミステリ読者のための連城三紀彦全作品ガイド【増補改訂版】』、
新保博久『ミステリ編集道』といったところ。
作家個人に焦点を当てたガイドや評論は、よほどの大御所でないとビジネス上は難しいのだろうが、ネットで連載された『アガサ・クリスティー完全攻略』や同人の『ミステリ読者のための連城三紀彦全作品ガイド【増補改訂版】』などを読むと、既存の版元はもう少し頑張れないのかなと思わずにはいられない。
さて、本年の『探偵小説三昧』もそろそろ営業終了。今年もご訪問いただき、誠にありがとうございました。来年もなんとか更新ペースを落とさずやっていく所存ですので、何卒よろしくお願いいたします。
それでは皆さま、よいお年を!