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 ちょっと懐かしいところでポケミス名画座からドロシイ・B・ヒューズ『孤独な場所で』を読む。ハンフリー・ボガートが気に入って、自らのプロダクションで製作・主演した映画の原作として有名な作品である。
 ただ、著者ドロシイ・B・ヒューズについては、我が国ではそれほど知られた存在ではない。かつては『別冊宝石』で長編が訳載されたり、ハヤカワミステリで『デリケイト・エイプ』なんてものも出ていたが、いま読めるのは本書と論創海外ミステリの『青い玉の秘密』ぐらいである。実は本国ではアメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞の評論賞や巨匠賞まで受賞したほどの作家なのだが、まあよくある話とはいえ残念なことだ。

 まずはストーリー。東海岸からロサンジェルスにやってきた戦争帰りのディックス・スティール。自称作家の彼は、昼間は怠惰な生活を送り、夜になればふらりと街へ出かけてゆく。彼の目にとまるのは若い女。かつて彼が愛した女性の面影をたたえた女だった。
  そんなディックスがあるとき戦友のブラブと出会う。今ではロス市警の刑事となったブラブは、世間を騒がす美女連続殺人事件を捜査していた。犯人の足取りは掴めず、事件に共通するのは絞殺されたという事実のみ。ブラブの話に思わず引きこまれたディックスだが、それには密かな理由があった……。

 孤独な場所で

 映画は傑作の誉れ高いものの(恥ずかしながら未見です)、それは原作の設定やストーリーをかなり改変した結果ということでやや心配したのだが、いやいや、原作もなかなか読ませる。

 本作はシリアルキラーを主人公にし、犯罪者の側から連続殺人を描いた物語。ただ、いわゆる倒叙ものではなく、ノワール、サスペンス、犯罪小説といったテイストだ。
 ポイントはなんといってもディックスが殺人鬼であることを明言しないそのスタイルだろう。殺害シーンなどの描写も一切ない。犯罪を犯したことはあくまで匂わせる程度であり、また、彼の暮らしぶりや友人たちとの会話などから、少しずつ彼の病んでいる部分が浮かび上がり、静かにカタストロフィへ雪崩れ込んでゆくという寸法。最近のド派手なシリアルキラーものとは極北にあるような作品で、ゆっくりとした、だが確かな物語に酔うことができる。
 とりわけ秀逸なのは会話の部分。特に警察関係者との会話では、怪しまれないよう細心の注意を払って情報を手に入れるべくカマをかけたり、相手が自分を試しているのではないかと疑心暗着に陥ったり、ディックスの不安に苛まれる気持ちが実に巧く表現されている。

 惜しいのは終盤のバタバタ感か。まずディックスが容疑をかけられるきっかけが雑というか、ざくっと片付けすぎる嫌いがある。いわゆる推理の部分がほとんどないのはかまわないけれど、物語の整合性まで不足するのはいただけない。
 また、ディックスの闇の底の部分が完全に明らかにならないもどかしさがあるのも残念。早い話が、連続犯罪に走った動機がもうひとつ見えてこない。
 もちろん説明はある。むしろ物語のラスト一行でその答えを劇的に見せる演出を企てているほどなのだが、この答えは表面的に過ぎるだろう。そこは読者が汲み取るべきなのかもしれないが、ラストまでの積み重ねが良いだけに、著者には最後までトーンを維持してほしかったところだ。

 これらの弱点を考えると傑作とまではいかないのだが、それでもシリアルキラーの心情を見事に描いた佳作として評価したい。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



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