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 論創海外ミステリの『つきまとう死』を読む。著者のアントニー・ギルバートは、はるか昔にポケミスから『黒い死』が、数年前には国書刊行会から『薪小屋の秘密』が出ただけの、地味な本格推理作家だが、なんと母国では九十作あまりの著書を持つ多作家。まあよくある話ではあるのだが、海の向こうと日本でここまで人気の差が出ることがいつも不思議。ヴァン・ダインやクロフツのクラスでもそうなのだからなぁ。

 それはともかく『つきまとう死』。こんな話である。
 莫大な財産を持つ老女レディ・ディングル。気難しい上に意地悪な婆さんなのだが、財産を譲り受けたい親族は嫌々ながらもつきあいを続けている。そんななか、ディングルのコンパニオンを募集することになったのだが、これに応募してきたのがうら若き未亡人のルース。実はルース、父と夫の死について疑惑を持たれていた、曰くつきの女性だったのだが、そんなことは家族も知らず、いつしかルースはディングルのお気に入りとなっていく。そしてディングルがルースを遺産の受取人に指名したとき、悲劇が起こった……。

 派手なトリックなど出てこないけれど、なかなか技巧的な作品である。先日読んだジョセフィン・テイの『裁かれる花園』と同様、殺人が起こるのはかなり後半で、シチュエーションの興味だけで作品のほとんどを引っ張っている。ルースという女性は本当に悪女なのかどうか。そして悲劇はどうやって引き起こされるのか。そこを退屈させないだけの文章力とお話作りの巧さがある。とりわけルースという女性の正体は常に興味の中心に位置するため、下手なキャラクター造形や描写は致命的なはず。軽やかにそのハードルを越えてみせるアントニー・ギルバート、なかなかやります。『薪小屋の秘密』ではそれほど感心しなかったが、これはおすすめ。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



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