論創ミステリ叢書から、本日は『光石介太郎探偵小説選』を読了。
光石介太郎は戦前にミステリ、戦後は主に青砥一二郎名義で純文学の活動を続けた作家である。青砥一二郎名義による著書はあるようだが、光石介太郎としてミステリの著作がまとめられるのはこれが初めてだという。
これは作品数が少ないのはもちろんだが、戦後になってミステリから純文学へ人知れず転向したため、一時期、完全に幻の作家となっていたことが大きい。
雑誌『幻影城』で取り上げられたことがきっかけで、エッセイを寄稿するなど推理文壇に復帰する兆しもあったのだが、運悪く『幻影城』が廃刊になったことから再び姿を消してしまう。これが1970年代終わりのこと。
そして、90年代に入り、『叢書「新青年」聞書抄』や鮎川哲也の『新・幻の探偵作家を求めて』などの取材が実り、ようやく光石介太郎の全容が明らかになったのだという。
本作ではそんな光石介太郎のミステリ作品から純文学作品までを網羅している。収録作は以下のとおり。
「十八号室の殺人」
「霧の夜」
「綺譚六三四一」
「梟(ふくろ)」
「空間心中の顛末」
「皿山の異人屋敷」
「十字路へ来る男」
「魂の貞操帯」
「基督(キリスト)を盗め」
「類人鬼」
「秘めた写真」
「鳥人(リヒトホーフェン)誘拐」
「遺書綺譚」
「廃墟の山彦(エコオ)」
「ぶらんこ」
「豊作の頓死」
「大頭(だいもんじゃ)の放火」
「死体冷凍室」
「あるチャタレー事件」
「船とこうのとり」
「三番館の蒼蠅」

ミステリ作家としても純文学作家としても成功したとは言えない光石介太郎だが、その作品の質は決して低くない。
ミステリにおいては専ら変格探偵小説寄りの作品だが、発想も悪くないし、何より文章がいい。この時代のミステリ作家にしては、という但し書きはつくけれども、適度な粘っこさや湿気があって、それが一風変わった世界観にマッチし、味わい自体は悪くない。
惜しむらくはミステリとしてツメが甘いことが。ラストをまあまあのところでまとめてしまう妙な淡白さが気になるのである。変格とはいえ、いや逆に変格だからこそ、読者の胸に刺さるラストのインパクトも必要だと思うのだが、その点でアイディアを生かしきれていない印象である。
実際、『新青年』でデビューした著者だが、本腰を入れた途端にボツをくらいまくったり、挙句には乱歩から純文学転向を勧められており、そういった弱点はミステリ作家としては致命的だったのではないか。
ただ、純文学においてはオチやラストのインパクトをミステリほど求められるわけではないので、後期の純文学寄りの作品ほどバランスがよくなり、トータルでの出来は良いように感じた。
個々の作品で幾つか好みをあげておくと、乱歩の影響をもろに受けたような「霧の夜」、「ブランコ」、「大頭(だいもんじゃ)の放火」あたりはまずまず。
晩年に書かれたものだが、熱量の高さが気持ちよい 「三番館の蒼蠅」もおすすめ。
「死体冷凍室」は犯罪小説が一気に猟奇的な物語へと変容する展開が見ものである。
ううむ、全体的にグロい作品が多くなってしまったが(苦笑)、これぐらいでないと光石介太郎の良さは発揮できないのかもしれない。