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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

極私的ベストテン2016

 2016年は政治、スポーツ、芸能に大事件が多く、ついでに自分の仕事も大変慌ただしい一年となり、気の休まることがほとんどなかったような気がする。
 体調的にも年齢からくる衰えを痛感し、大病がないのが幸いだが、こまかい病気にはいろいろと罹ってしまった。とにかく来年はもう少し余裕をもって生活したいものである。

 しかし。そんな忙しない一年にあって、読書ライフはそれなりに充実していたようだ。『探偵小説三昧』の年末恒例「極私的ベストテン」をやろうとランキングを決める作業にとりかかったのだが、これがまあ候補が多すぎて苦労すること。
 新刊はもとより旧作でも候補作が目白押し。ミステリ読み始めて優に四十年は経っているのに(年がばれますな)、まだこんなに未読の傑作があるのかよってな感じである。
 というわけで何とかかんとか組み上げた「極私的ベストテン2016年」。管理人が今年読んだ小説の中から、刊行年海外国内ジャンル等一切不問で選んだベスト十作を発表致します!

1位 チャールズ・ウィルフォード『拾った女』(扶桑社ミステリー)
2位 多岐川恭『異郷の帆』(講談社文庫)
3位 アーナルデュル・インドリダソン『声』(東京創元社)
4位 吉屋信子『文豪怪談傑作選 吉屋信子集 生霊』(ちくま文庫)
5位 ヘレン・マクロイ『二人のウィリング』(ちくま文庫)
6位 パーシヴァル・ワイルド『ミステリ・ウィークエンド』(原書房)
7位 ピエール・ルメートル『傷だらけのカミーユ』(文春文庫)
8位 ロバート・エイクマン『奥の部屋』(ちくま文庫)
9位 D・A・レイナー『眼下の敵』(創元推理文庫)
10位 石沢英太郎『視線』(講談社文庫)

 本年度の極私的ベストワンは『拾った女』。ノワールとして一級品でありながら、ラストにどんでん返しをもってくることで、より作品に深みを増すという仕掛けが秀逸。仕掛け自体はそれほど新しいものではないのだけれど、ノワールでやることが衝撃だった。
 もう圧倒的。まだまだ邦訳が進んでほしい作家である。

 2位は今更ながらその魅力を再確認できた多岐川恭の代表作。今年は他にも『氷柱』『濡れた心』『おやじに捧げる葬送曲』、短編集の『落ちる』と読んだが、どれも一級品。すべてをベストテンに入れてやろうかとも思ったのだが、さすがに他の作家も紹介したかったので、とりあえず『異郷の帆』を代表で。長崎出島という舞台がミステリとしてもドラマとしても活かされている。
 これと『おやじに捧げる葬送曲』は、ミステリファンなら必読である。

 3位は定期的に翻訳が進んでいる著者の第三作。ここ数年ブームになっている北欧ミステリで、正直食傷気味のところもあるのだけれど、これは間違いなくオススメ。刑事自身の物語と事件、社会的な背景が渾然一体となって見事である。

 ちくま文庫の「文豪怪談傑作選」はハズレなどあるはずもないのだが、吉屋信子の作品は明治の文豪たちとはまた一味違った魅力があって面白い。オーソドックスな幻想小説もいいのだが、その裏をつくスルーパスのような作品が面白く、技巧的にも要注目。「生霊」(いきたま)とかほんと好み。

 5位は鉄板。マクロイは今年もう一冊、『ささやく真実』も出ているのだが、そちらは残念ながら積ん読中で来年回しである。

 6位も絶妙。1938年発表のクラシックミステリながら、予想以上に現代的。構成の妙が最大の売りといえるが、とにかく緻密な作りに唸らされた。

 ベタではあるが『傷だらけのカミーユ』もやはり外すわけにはいかず7位でランクイン。イレーヌ、アレックスに続いてレベルを維持しているところはまったくもってアッパレ。描写は相変わらずショッキングでそこは好き嫌いが出るだろうけれど、この三作ですでにミステリ史に残るシリーズになったといってもよいだろう。

 8位のエイクマンも吉屋信子と少し似たようなところがあって、直接的な怖さではなく、読者に想像させることで怖がらせるイメージ。奇妙な味といってもよい面白さがある。

 冒険小説の読書量はこの数年すっかり低迷の一途なのだが、久しぶりに読んだ『眼下の敵』はしびれた。人間ドラマではなく、戦術や駆け引きという純粋な戦いのドラマで読ませるのがミソ。それだけにラストシーンで描かれる人間の愚かさが笑えるのだ。

 10位は相当に迷ったのだが、最近ではなかなか読まれることのない作家から選ぼうということで、 石沢英太郎の短編集をセレクト。小粒ではあるが良質な作品ぞろいで、ぜひ再評価されてもよいのではないか。

 惜しくもベストテンからは漏れたが、以下の作品も遜色はないものばかり。ぜひ機会があれば読んでもらいたい。

中町信『田沢湖殺人事件』
中町信『奥只見温泉郷殺人事件』
マーガレット・ミラー『悪意の糸』
山川方夫『親しい友人たち』
谷崎潤一郎『武州公秘話』
松本清張『ゼロの焦点』
小泉喜美子『血の季節』
カミ『ルーフォック・オルメスの冒険』
ネレ・ノイハウス『悪女は自殺しない』
ジャック・リッチー『ジャック・リッチーのびっくりパレード』
レオ・ブルース『ハイキャッスル屋敷の死』

 さて、これで『探偵小説三昧』、今年の更新はすべて終了。今年も拙サイトにご訪問いただき、まことにありがとうございました。
 来年も似たようなペースだとは思いますが、ぼちぼちやっていきますのでどうぞよろしくお願いいたします。
 それでは皆さま、よいお年を!


プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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