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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

ロアルド・ダール『マチルダは小さな大天才』(評論社)

 昨日に引き続き寝て過ごす。

 本日の読了本はロアルド・ダールの『マチルダは小さな大天才』。頭が働かないのでジュヴナイルでお茶をにごす。

 『マチルダは小さな大天才』は、5歳の天才少女マチルダが非道な大人たちにいたずらで復讐するお話。いつにもましてダールの筆致が冴え渡っており、とにかく子供に対する大人たちの言動が、児童虐待なんてものではなく、もうほとんど犯罪レベル。もちろんマチルダたちも負けてはおらず、その仕返しの凄まじいこと。まあ、だからこそ子供のハートに響くのであり、そんなバトルの末に訪れるハッピーエンドに心がギュッとなるのだろう。
 少々気になるところもある。例えばマチルダが使えるようになる超能力の扱い。せっかくマチルダが大天才という設定なのだから、ここはやはり頭で勝負してほしかったところだ。また、マチルダの両親の最後のエピソードも妙に唐突だ。
 しかし細かいことは言うまい。こういう本を読んで子供には物語の楽しさを知ってほしいし、本を好きになってほしいと願う次第。ダールの思いが世界中の子らに届かんことを祈りつつ。


ロアルド・ダール『こちらゆかいな窓ふき会社』(評論社)

 体調が悪くて読書どころではないが、それでも何か活字に触れていないと気が済まない。子供向けのものならあまり頭を使わなくていいかも、というのでダールの児童書を手にとる。ものは『こちらゆかいな窓ふき会社』。
 動物たちが経営する窓ふき会社というのがミソで、キリンや猿、ペリカンなど、彼らがめいめいの特徴を活かして活躍するお話。ダールのエッセンスは詰まっているが、それぞれの見せ場が一通り終わったところで、あっという間に終わりというのが何とも残念。ダールの児童書の中でもとりわけ短い作品のようだ。
 なお、『チョコレート工場の秘密』のワンカ工場で作られたお菓子が、いろいろ紹介されるお遊びも楽しい。


ロアルド・ダール『ガラスの大エレベーター』(評論社)

 ロアルド・ダールの『ガラスの大エレベーター』を読む。『チョコレート工場の秘密』の続編にあたる作品で、一応は独立した作品だが、やはり『チョコレート工場の秘密』を読んでからのほうが登場人物の理解などによかろう。

 物語は前作のお終いからスタートする。ワンカさんがチャーリーの家族全員を空飛ぶガラスのエレベーターに乗せ、工場へ帰るところだ。ところがエレベーターの操縦を誤って、宇宙に飛び出してしまった……というのが今回のお話。前半は宇宙での冒険、後半は工場に帰ってきての冒険ということで、大きく二部構成なのだが、これがまったく繋がっていないお話で、構成的にはいまいち。工場での冒険も前作のパターンを踏襲しているので、それほど新味はない。正直、『チョコレート工場の秘密』に比べて完成度はかなり落ちるだろう。
 だが、ひとつひとつの場面は相変わらずテンションが高く、このシリーズの最大の魅力はまったく失われていないので、構成がどうとかはあまり気にせず、素直に楽しんだ方がいいのかもしれない。


ロアルド・ダール『チョコレート工場の秘密』(評論社)

 ティム・バートン監督、ジョニー・デップ主演による『チャーリーとチョコレート工場』が上映中だが、原作はもちろんロアルド・ダールの『チョコレート工場の秘密』。ミステリファンには奇妙な味の短編集『あなたに似た人』が知られているが、世間一般では『チョコレート工場の秘密』の方が遙かに有名だろう。なんせイギリスの子供の間では、ハリポタや指輪物語と並ぶほどの人気が今もあるという。とまあ、こんな知ったかぶりを書いているくせに、恥ずかしながら実は未読。映画の前に読んでおきたいということで、本日の読了本は『チョコレート工場の秘密』である。

 「ワンカ製のチョコレートに入っている5枚のゴールデンチケット。これを引き当てた5人の子供たちを、チョコレート工場見学にご招待」。世界でもっとも有名で、もっとも謎に包まれたウィリー・ワンカのチョコレート工場。この秘密が明かされるというので、世界中は大興奮。主人公のチャーリー・バケツ少年も当然見学はしたいけれど、家が貧しくてチョコレートなど年に1回の誕生日にしか買ってもらえません。でも誕生日はもうすぐ。1回のチャンスに家族中が期待しますが、果たして結果は? そしてチョコレート工場の秘密とは?

 あらすじを書いてみたけど、なんだかピンとこないな。とにかくこの面白い物語を今まで読まなかった不明を恥じるのみ。魅力的なストーリーに傑作なキャラクターたち、想像力の見事さ。そして忘れちゃいけないブラックな味つけ。児童書なので最低限の教訓はキープしているが、刺激の強さは半端じゃない。ダールは大人向けの作品でもブラックユーモア色の強い作品が多いが、それは児童書においてもまったく損なわれてはいない。それどころかテンポのよい文章やコミカルなセリフ、歌などが相まって、いっそうイキイキとした印象を受ける。傑作です。

 なお、今回読んだのは、ロアルド・ダール コレクションとして出た柳瀬尚紀訳のもの。柳瀬氏ならではのこだわりある翻訳とあとがきがグー。映画と固有名詞が違うけれど、読むならこちらがおすすめ。


ロアルド・ダール『ロアルド・ダールの鉄道安全読本』(日本経済評論社)

 昼飯を食べに出たとき、200円均一で落ちていた『ロアルド・ダールの鉄道安全読本』をゲット。
 ロアルド・ダールの児童書のなかではマイナーな方だと思うが、これは小説や童話の類ではなく、ましてやパロディでもない。タイトルどおり正真正銘の鉄道安全読本。つまり、「危ないから線路のなかに入っちゃいけませんよ」などといった注意を記した本なのだ。

 なんでダールがそんなものを、という疑問はごもっとも。元はといえば、当時の英国国営鉄道会社ブリティッシュ・レールが宣伝用に作った25ページほどの子供向けパンフレットということで、多くの子供達に読んでもらえるよう、児童書の人気作家であるダールに白羽の矢がたったらしい。また、イラストにも、やはり本国で人気のある(らしい)クェンティン・ブレイクを起用している。

 まあ、なんせ内容が内容だから過剰な期待をしてはいけないだろう、っていうかするな。
 「プラットフォームではスケートボードに乗るのもやめましょう」というような感じで本文が続くため、実際の話、ロアルド・ダールが書こうが誰が書こうがまったく同じだし(笑)。ただ、一コマ漫画的に読ませる構成なので、予想以上には楽しめた。
 また、ダールは本文に入る前に序文を寄せているのだが、これがなかなかウィットに富んだ教育論というか文化論になっている。この本の価値はむしろこちらにあるのかもしれない。


プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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