国書刊行会の(シャーロック・ホームズの姉妹たち)の第二巻、レジナルド・ライト・カウフマン『駆け出し探偵フランシス・ベアードの冒険』を読む。先日読んだファーガス・ヒューム『質屋探偵ヘイガー・スタンリーの事件簿』が英国産の短編集だったので、なんとなく本書もそんなイメージだったが、なんとアメリカ産の長編というからちょっと意外。
ということで、まずはストーリーから。
ニューヨークの探偵社に勤める女性探偵のフランシス・ベアード。ところが期待に反して仕事は失敗続き。とうとう「次の仕事に失敗したらクビ」という宣告まで受けてしまう。
そして与えられた仕事が、ダイヤモンドの警護。ニューヨーク郊外の邸宅メイプル荘で結婚パーティが行われる。そこで披露される貴重なダイヤモンドを監視せよというものだ。相棒のケンプと共にメイプル荘にやってきたフランシスはさっそうと仕事にとりかかるが、あえなくダイヤモンドは盗難にあい、挙句に殺人事件まで発生してしまう……。

いやあ、何なんだろう。ホームズと同時代という認識で読んでいると、これはちょっと驚くのではないか。
本作の発表は1906年。ミステリにおける黄金時代のスタートはクリスティーらが登場した1920年、アメリカではさらに1926年のヴァン・ダイン登場まで待たなければならないのだが、この作品は1906年の時点で、長編探偵小説としてけっこういい感じで成立しているのである。もちろんこの時代にもすでに多くのミステリは書かれているが、主流は冒険要素の強い探偵ものやサスペンス、犯罪小説というところである。
そんな時代にあって、本作は物語の中心にきちんと殺人事件の謎を置き、その謎を解くための調査や推理を積み重ねていく。それこそ冒険要素がほとんどの内容だろうと予想していたので、それをいい意味で裏切られたことに驚くのである。
ただ、推理の内容は割とおそまつというか、肝心のところでロジックをうっちゃっているのが、やはり黄金時代夜明け前という感じではあるのだが(苦笑)。
もうひとつ驚かされたのは、やはり女性探偵の活躍が自然な形で描かれていることだろう。
女性探偵が珍しいというより女性の社会進出がまだ珍しい時代である。『質屋探偵ヘイガー・スタンリーの事件簿』でもやはりその点が興味深かったわけだが、やはりアメリカというお国柄もあるのか、本作はそれ以上。女性の社会への進出ぶり(しかも探偵)が、社会問題というアプローチなどを咬まさず、普通の生活手段として描かれているのが正直すごい。
何というのだろう。その辺の大学を出た女子大生が、「普通に就職しようと思ったのに何だかうまくいかなくて、結局3K的な探偵会社に就職しちゃって、生活があるから何とか続けてるけど、いい男が見つかったらさっさと結婚して仕事なんて辞めるわ」みたいな感じなのである。そう、今、読んでもほとんど違和感を感じないという驚きなのかもしれない。
キャラクター作りの巧さやテンポの良さも相まってリーダビリティもすこぶる高い。
まあ、そうはいっても1906年の娯楽読み物。予備知識なしで読めばこんなものかで終わる読者も多いだろう。
しかし、やはりミステリと長年つきあってきたファンとしては、こういう作品もきちんと評価したいものだ。そしてシリーズの今後の展開にも期待したい。