アンドレ・ド・ロルドの短編集『ロルドの恐怖劇場』を読む。
ロルドはフランス出身の劇作家。二十世紀初頭のパリで、恐怖演劇によって人気を博したパリのグラン・ギニョル座というものがあり、その座付き作家として活躍したのがこのロルドである。戯曲だけでなく短篇小説も多くものにし、「恐怖のプリンス」の異名をとったほどらしい。

Un crime dans une maison de fous「精神病院の犯罪」
Figures de cire「蝋人形」
Le Masque「デスマスク」
L’Hystérique「ヒステリー患者」
L’Illustre Professeur Truchard「高名なるトリュシャール教授」
En silence「無言の苦しみ」
La Dernière Torture「究極の責め苦」
L’Enfer「地獄」
L’Arbre vivant「生きている木」
Béréguisse!「ベリギーシ」
L’Enfant mort「死児」
L’Autre vengeance「もうひとつの復讐」
L’Agonisante「死にゆく女」
Au petit jour「夜明け」
Madame Dubois, sage-femme「助産婦マダム・デュボワ」
Un accident「事故」
L’Obsession「強迫観念」
L’Horrible Expérience「恐怖の実験」
L’Horrible Vengeance「恐ろしき復讐」
Confession「告白」
L’Acquittée「無罪になった女」
Le Grand Mystère「大いなる謎」
収録作は以上。
時代のせいもあるのか、それほど捻った仕掛けは用いられておらず、実に直球な物語ばかりだ。とにかくはっきりとした恐怖、直裁的な怖さをストレートに描写する。
ただ、意外なことに、そこにはオカルトや超自然現象といった要素はほぼ見られず、描かれるのは人間の心にある狂気や死に対する恐怖が主である。特に精神病ネタは多い。著者が医師の家庭に生まれたことはもちろん関係あるだろうが、解説によると当時の精神医学の発達の影響が大きかったという社会的要因も関連しているようだ。
言ってみればサイコスリラーの走りのような感じでもあり、そういう意味では同じ時代の恐怖作家、アーサー・マッケンやラヴクラフトと同じ興味で読むとあてが外れるだろう。とはいえ、これは裏を返せば、より身近な恐怖を扱っているということでもある。そういう意味では一般読者に対しては、むしろマッケンやラヴクラフトなどよりは、よほどアピールしやすい感じはある。
惜しむらくは作品がどれも短いせいで全般的にやや物足りなさが残る。
ストーリーの面白みや人物の深み、何より怖さの盛り上げが性急すぎて正直それほど怖くない(苦笑)。短編小説だが、やはり頭のどこかで一幕ものの芝居に置き換えてロルドは書いていたのだろうか。