昨年末にNHK-BSで放映されたBBC製作の『そして誰もいなくなった』をようやく視聴する。放映後に発売されたDVD版である。
さすがにもうあらすじ紹介はいいかなとも思うのだが、念のためザクッと書いておくと、アガサ・クリスティ原作のミステリで、いわゆるクローズド・サークルものにして、見立て殺人もの、さらに詳しくいうとマザー・グースものの傑作。孤島に招待された見ず知らずの十人の男女が、童謡の歌詞のとおり一人づつ殺されていくという物語である。
本格ではあるがサスペンスとしても非常に秀逸であり、今年、日本でも初めて仲間由紀恵らの出演でテレビドラマ化されたのは記憶に新しいところだ。
なお、今回、ネタバレありでいきますので原作・映像ともに未読・未見の方はご注意を。

本作の特徴は、概ね原作どおり忠実に作っているけれども——時代をきちんと1939年に設定しているところなど——要のところでは、独自の解釈や演出を加えていることだろう。
その最たるものは、登場人物が過去に犯したと思われる犯罪が、止むを得ない事情の結果によるものではなく、明らかなる殺意がそこにあったと解釈していることだ。
とりわけ最後に残る家庭教師のクレイソーンはヒロイン的な存在のため、これまでの映像化作品ではほぼ彼女の事件は過失として描かれている。ところが本作では彼女に殺意があったことを明示しており、まさにこの一点があるだけで、本作は忘れられない作品となった。
ややもするとサイコ的な犯人像、被害者は過去がどうあれやっぱり被害者として描かれることが多い本作において、彼らもまた犯人以上に実は許すことのできない存在であったというのは、正直、クリスティの原作以上にテーマを重くしており、個人的には非常に評価したい。
ちなみにクレイソーンの最後で犯人がその姿を現し、真相を明らかにするという演出を加えているのも見逃せない。
『そして誰もいなくなった』のエンディングは、原作の迷宮入りになるエピローグで締めるパターン、舞台化や映像化でよくあるハッピーエンドと、大きく二つのパターンがあるけれど、これに三つめのパターンを作り出したようにも思う(アレンジではあるけれど)。
演出ではこのほか、登場人物たちの意識をホラータッチで見せるやり方は心憎い。少々やりすぎのところもあって、原作を知らないと本当にホラーかと勘違いする視聴者もいそうだが、狙いとしては悪くないだろう。
考えると、この演出を今年のテレビ朝日版はかなり参考にしたのではないだろうか。
各人の演技も素晴らしく、若干デフォルメ気味にしているところが、全体のサスペンスや恐怖を盛り上げている。
惜しむらくは序盤に殺害される登場人物の過去が、よくわからないまま進行してしまうところか。まあ、これは本作に限らず、『そして誰もいなくなった』の映像化では必ず直面する課題なのだが。そもそも序盤で殺害される連中は、自分の過去と向き合う前に死んでしまうから掘り下げる暇もないわけで。
ということで基本的には十分満足できるBBC版『そして誰もいなくなった』。おすすめです。