fc2ブログ

探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

ジョンストン・マッカレー『赤い道化師』(湘南探偵倶楽部)

 ジョンストン・マッカレーの『赤い道化師』を読む。もともとは博文館文庫で昭和15年に刊行されたものを、クラシックな探偵小説や関連資料を私家版として出している湘南探偵倶楽部さんが復刻した一冊。

 マッカレーといえば古くは『地下鉄サム』や『怪傑ゾロ』、近年では『仮面の佳人』あたりが論創海外ミステリで訳されてよく知られているところだろう。『地下鉄サム』は若干異色だろうが、それでも基本にあるのは勧善懲悪、大衆のために身分を隠して戦うヒーローを繰り返し描いているのが特徴的だ。
 本作も“赤い道化師”と呼ばれる義賊を主人公にしたシリーズの一作。人を傷つけることをよしとせず、盗みを働く相手も悪事で財を肥やす悪人たちに限られる、“現代のロビンフッド”である。

 赤い道化師

 こんな話。
 年の頃は三十歳、いかにも青年紳士といった体のデルトン・ブラウズが夜道を歩いていたときのことである。とある石塀の門がそろりそろりと開き、なかから若い女性が現れた。
 なぜ家から出るのに泥棒のような真似をしているのか? 興味を覚えたデルトンがこっそり後をつけると、女性は途中のショーウィンドウの前で白い紙を落とす。それは「これを拾った方へ」と書かれた手紙であった。
 デルトンが中を見てみると、そこには半分にちぎった10ポンド紙幣、そして勇気のある方はこれを左記の住所に届けてくれれば10ポンドの残り半分、さらにもう10ポンド渡すというではないか。不思議な内容に考え込むデルトンだったが、人混みのなかを歩いていたとき、耳元で「手紙に書かれた家へ行ってはいけない」と囁く声が……。

 美女の怪しい行動、謎の手紙と続く導入部は掴みとして十分。巻き込まれ型スリラー風の前半はそれなりに楽しめ、特に本作に関してはシリーズ1作目ゆえ、“赤い道化師”の正体でも引っ張っていく(まあ、バレバレですが)。
 しかし後半は無事に“赤い道化師”も登場するけれど、敵との対決に終始してややあっさりした印象を受ける。せっかく義賊が主人公なので、できれば面白い盗みのテクニックなども披露してほしいところだが、そういうところにあまり著者の興味はないようだ。
 ただ本作においては“赤い道化師”の正体という全体的な仕掛けがあるし、長編といってもけっこう短い作品なのでほぼ中だるみもなく、まずまず面白く読むことはできた。

ジョンストン・マッカレー『仮面の佳人』(論創海外ミステリ)

 ジョンストン・マッカレーの『仮面の佳人』を読む。たまたまだが「黒蜥蜴」に続いて女盗賊つながりである。
 本作は論創海外ミステリの一冊ではあるが、マッカレーは代表作である「地下鉄サム」や「怪傑ゾロ」のシリーズを見てもわかるように、ミステリというより冒険小説や大衆小説の書き手である。そして本作もまた冒険小説成分が高い一冊であった。

 こんな話。大学で教鞭を執るサルウィック教授はある夜、強盗に押し入られる。しかし、教授はこれを見事返り討ちにすると、なぜか強盗を椅子に座らせ、犯罪者の生活についていろいろと聞き出そうとする。実はサルウィック教授、あまりに教職での収入が少ないため、犯罪者に転向しようと考えていたのだ。
 一方、町のギャンググループのボス・赤毛のライリーは、刑事から逃げるため、誤って敵対するギャングが集まる酒場に入ってしまう。なんとか穏便にすまそうと思ったが、結局は大勢を相手に闘うハメになってしまうライリー。腕に覚えはあっても多勢に無勢、ライリーが観念した瞬間だった。なんとその場に居合わせたサルウィック教授が助太刀に現れたのだ。
 次から次へと襲い掛かる相手を薙ぎ払う二人。しかし、ついに袋小路に追い詰められる。そのとき二人の窮地を救ったのが、黒い仮面をつけたドレス姿の女性だった。M(マダム)・マッドキャップと名乗るその女性は、ある犯罪計画を二人にもちかけるが……。

 仮面の佳人

 おお、これぞ古き良き時代の冒険小説(1920年の作品である)。いろいろな山場を盛り込みつつも、基本的にはゆったりした感じとユーモアで包まれているので、変なハラハラドキドキはなく、素直に楽しむことができる。
 キャラクターもステレオタイプではあるが、デフォルメ具合がほどよく、特に犯罪者志望のサルウィック教授のちょいボケ具合がなかなか面白い。

 感心したのはプロット。思った以上にしっかりしていて、エピソードを重ねるというよりはきちんと着地点を見据えてプロットが作られている印象である。マッドキャップの狙いが何なのか?その正体は? 中盤あたりでいよいよ興味もはっきりしてきて、予想以上に読者をひっぱってくれる。
 まあ、それを支えるネタの数々が、今読むとさすがにかなりの古さを感じさせるのだけれど(笑)、それは時代ゆえ仕方あるまい。
 ということでそれほど期待していなかっただけに、意外なほど楽しい一冊でありました。


プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

ツリーカテゴリー