ジョンストン・マッカレーの『仮面の佳人』を読む。たまたまだが「黒蜥蜴」に続いて女盗賊つながりである。
本作は論創海外ミステリの一冊ではあるが、マッカレーは代表作である「地下鉄サム」や「怪傑ゾロ」のシリーズを見てもわかるように、ミステリというより冒険小説や大衆小説の書き手である。そして本作もまた冒険小説成分が高い一冊であった。
こんな話。大学で教鞭を執るサルウィック教授はある夜、強盗に押し入られる。しかし、教授はこれを見事返り討ちにすると、なぜか強盗を椅子に座らせ、犯罪者の生活についていろいろと聞き出そうとする。実はサルウィック教授、あまりに教職での収入が少ないため、犯罪者に転向しようと考えていたのだ。
一方、町のギャンググループのボス・赤毛のライリーは、刑事から逃げるため、誤って敵対するギャングが集まる酒場に入ってしまう。なんとか穏便にすまそうと思ったが、結局は大勢を相手に闘うハメになってしまうライリー。腕に覚えはあっても多勢に無勢、ライリーが観念した瞬間だった。なんとその場に居合わせたサルウィック教授が助太刀に現れたのだ。
次から次へと襲い掛かる相手を薙ぎ払う二人。しかし、ついに袋小路に追い詰められる。そのとき二人の窮地を救ったのが、黒い仮面をつけたドレス姿の女性だった。M(マダム)・マッドキャップと名乗るその女性は、ある犯罪計画を二人にもちかけるが……。

おお、これぞ古き良き時代の冒険小説(1920年の作品である)。いろいろな山場を盛り込みつつも、基本的にはゆったりした感じとユーモアで包まれているので、変なハラハラドキドキはなく、素直に楽しむことができる。
キャラクターもステレオタイプではあるが、デフォルメ具合がほどよく、特に犯罪者志望のサルウィック教授のちょいボケ具合がなかなか面白い。
感心したのはプロット。思った以上にしっかりしていて、エピソードを重ねるというよりはきちんと着地点を見据えてプロットが作られている印象である。マッドキャップの狙いが何なのか?その正体は? 中盤あたりでいよいよ興味もはっきりしてきて、予想以上に読者をひっぱってくれる。
まあ、それを支えるネタの数々が、今読むとさすがにかなりの古さを感じさせるのだけれど(笑)、それは時代ゆえ仕方あるまい。
ということでそれほど期待していなかっただけに、意外なほど楽しい一冊でありました。