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 向こう半年ほど仕事がとてつもなく忙しくなりそうな予感だが、とりあえずこの週末はできるだけ体を休める方向で。


 ドナルド・E・ウェストレイクが奥さんのアビーと合作した『アルカード城の殺人』を読む。
 本作は普通のミステリではなく、ホテルで行われた推理ゲームイベントをノヴェライズしたもの。日本でもそういうイベントがあったと記憶するが、これは参加者が探偵役としてホテルに宿泊し、そこで演じられる芝居やムービーを見たり、出演者に訊問して、犯人を当てるという観客参加型推理イベントである。
 本作のもとになったイベントはウェストレイク夫妻が構成を担当しているだけでなく、スティーヴン・キングやピーター・ストラウブが出演しているということで、なかなか人気を博したようだ。

 ルーマニアはトランシルヴァニアの森に立つアルカード伯爵の古城。蔵書を整理する仕事に雇われた図書館司書のジョゼフ・ゴーカーは、到着早々に何者かに殺害されてしまう。その首筋には小さな二つの傷痕が……。夜にしか活動しないアルカード伯爵とその娘、信用おけない博士と助手、曰くありげな占い師、突然現れた推理作家夫妻など、容疑者たちの証言から明らかになる真実は……?

 アルカード城の殺人

 なんせ一夜のイベント。正解者がいないと盛り上がりに欠けるということもあるらしく、それほど複雑な謎ではない。正直けっこうストレートな真相で、え、本当にこれでいいのというレベル。
 でも設定はなかなか面白くて、ドラキュラがモチーフになっているのはもちろんだが、他にもクラシック・ホラーのネタが散りばめられている。例えば伯爵の名前アルカード(Alucard)は昔からよく使われるアナグラムで、もとはドラキュラ(Dracula)である。その娘の名前プリメヴァ(Primeva)はヴァンパイア(Vampire)のアナグラムだし、他にもフランケンフィールド博士(これはかなりストレートだね)なんてのも。内容的にも狼男を彷彿とさせるネタがあったり、まあ、いろいろ遊んでいるようだ(この辺、見る人が見ればもっといろいろあるはず)。

 また、ノヴェライズにあたっては単なる小説形式ではなく、できるだけイベントを疑似体験できるような構成にしているのもウェストレイクならではのサービス精神。最初にスライド上映される事件のあらましはナレーション形式(翻訳は講談調?)、参加者が容疑者に質問する部分は、各容疑者の証言というスタイルになっている。
 この容疑者の証言によって事実が徐々に明らかになってくるのだが、これがなかなか読ませるわけで、さすがウェストレイク。まあ、真相を考慮すると積極的にオススメできるような代物ではないが、読んでいる間はそれなりに楽しい一冊であった。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 ドナルド・E・ウェストレイクの『忙しい死体』を読む。
 ハードボイルドでスタートした著者が、その作風をユーモアに転換させていった時期の作品。このひとつ前には同じくユーモアミステリの『弱虫チャーリー、逃亡中』があり、その前には『憐れみはあとに』があるのだが、こちらはハードボイルドから離れたとはいえスリラーであったし、本格的にユーモアを取り入れたのは本書が二作目となる。

 忙しい死体

 ボスの片腕として働く、若きギャングのエンジェル。あるとき彼はボスに命じられ、墓から死んだばかりの仲間の死体を掘り出すよう命じられる。実はその死体が着ていたスーツには、なんと二十五万ドル相当のヘロインが隠されていたというのだ。気がすすまないながらも、深夜に墓堀へ向かうエンジェル。ところが棺からは死体が消え失せており、エンジェルはさらに死体探しをボスから命じられるが……。

 後のユーモアミステリでの活躍を十分に彷彿とさせる作品だが、まだ書き慣れていないせいか、後期の作品ほどには弾けていない。主人公はわりとノーマルなタイプだし、ドタバタではあるが悪ふざけという感じがない。訳のせいかもしれないが、文章もやや抑えている印象。そこで好みが分かれる気もするが、個人的にはこれもアリ。
 まあ絶賛するほどではないけれど、後味もよく、通勤通学のお供や暇つぶしにはちょうどいい一冊といえる。


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 ドナルド・E・ウェストレイクの『泥棒が1ダース』を読む。ハヤカワ文庫でスタートした「現代短篇の名手たち」の三発目。ルヘイン、ランキンときて、ウェストレイクなので、このシリーズの質はもう完全に保証されたといってよい(ただ、文庫落ちがいくつかあるのは残念)。

 泥棒が1ダース

 本書はウェストレイクの短編集というだけではなく、泥棒ドートマンダーものの短編集でもある。ドートマンダーと言えば、ローレンス・ブロックのバーニイ・ローデンバー、ホックの怪盗ニックと並ぶ現代の三大泥棒の一人(って勝手に決めてます)。しかも長篇では数々の作品が刊行されているドートマンダーものだが、意外に短編集はこれが初めて。個人的にはこれを読まずして何を読みますかというぐらい必読の一冊なのである。
 収録作は以下のとおり。

Dortmunder and Me, in Short「ドートマンダーとわたし」(序文)
Ask a Silly Question「愚かな質問には」
Horse Laugh「馬鹿笑い」
Too Many Crooks「悪党どもが多すぎる」
A Midsummer Daydream「真夏の日の夢」
The Dortmunder Workout, or Criminal Exercise「ドートマンダーのワークアウト」
Party Animal「パーティー族」
Give Till It Hurts「泥棒はカモである」
Jumble Sale「雑貨特売市」
Now What?「今度は何だ?」
Art and Craft「芸術的な窃盗」
Fugue for Felons「悪党どものフーガ」

 こうしてドートマンダー物の短編をまとめて読むと、ある程度、型というか面白さの秘密のようなものが見えてくる。このシリーズはもちろんドートマンダーの泥棒稼業について語られるわけだが、実は大抵の場合、その盗みに絡んで別の事件が発生し、それをドートマンダーが解決するという流れになっている。そしてラストではドートマンダーが本来の自分の仕事も忘れず、ちゃっかり報酬を頂くというオチで締める。つまり二本の縦軸を巧くミックスさせているのである。
 ウェストレイクは語り口も巧いしドタバタも上手だから、ついそちらにばかり目がいくが、そういう面白さも、上で述べたようなしっかりしたプロットや構成があるからこそ。近年訳されてきたドートマンダー物の長篇はボリューム過多の傾向があるが、こういう短い形でビシッと読ませる方が全然よい。
 とにかく期待に違わぬ一冊である。

 なお、「ドートマンダーのワークアウト」のみ特別な事件が起こらない、ドートマンダーの日常の一コマを垣間見せる掌編となっているのだが、実はこの内容がいまひとつ理解できない。アメリカ人と日本人の感覚の差なのか、こっちが鈍いだけなのか。読まれた方、どなたか、この作品の意味をご教授下され。


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 引き続きウェストレイク消化。ものは1964年に発表された『憐れみはあとに』。
 ハードボイルドでデビューしたウェストレイクが、その作風をユーモアに転換したことはよく知られているが、そのちょうど切り替わりの時期に発表されたのが本書。だからといって、ハードボイルドとユーモアが融合した作品なのかというとそんなことは全然無くて、これがなんとサイコスリラー調の物語であった。

 憐れみはあとに

 精神病院に収容されていたある患者が、看守を殺して脱走した。並はずれた知能を持つその男は、逃亡中に知り合った俳優を殺し、彼に成りすますことにする。そして向かうは俳優が出演するはずだった田舎町のとある劇場。そこでなら身を隠せるかもしれないーーだが、男は早々に犯行を重ねてしまい、大学教授でもある警察署長のソンガードが、捜査に乗り出した。犯人は俳優たちの中にいるはずだーーだがそれはいったい誰なのか?

 サイコスリラーという言葉はなく、多重人格者という存在もまだ一般的ではなかった1964年。多重人格という題材をミステリに用い、かつサスペンスとして成立させたところに本書の意義はあるのだが、残念ながら完成度はそれほど高いとはいえない。
 多重人格者の心理や、かつその心理を読み解きながら犯人を追いつめようとするソンガードの捜査はそれほど悪くない。犯人の言動のいくつかは納得しがたい部分もあり、説得力という部分ではやはり最近のサイコスリラーに一歩譲るだろうが、書かれた年代を考慮すればなかなかのレベルである。
 むしろ問題はミステリとして一本調子になりすぎている部分か。
 設定はすこぶる魅力的なのである。物理的に犯人は四人の俳優たちに絞られるという状況を作り出し、そのうえで犯人の描写(もちろん名前は明かさず)と、捜査側の描写を交互に描いて、サスペンスを盛り上げるところなどはさすがウェストレイクである。
 ただ、ここからが意外なほど淡泊に流してしまう。決して論理で落とし前をつけるわけではないのである。謎解きが狙いではないことはわかるけれど、ここはもう少し犯人捜しという意味で、読者を楽しませる工夫がほしかったところだ。設定が魅力的なだけに、ちょっともったいない一作である。


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 ドナルド・E・ウェストレイクの『空中楼閣を盗め!』を読む。この人の作品もずいぶん読んだはずだけど、けっこう読み残しも多くて、そもそもスタークやタッカー・コウなど別名義分はほとんど読んでない。追悼、というわけでもないが、ぼちぼち読み進めなければ。ううむ、いつもこういうことばかり書いている気が……。

 空中楼閣を盗め!

 南米のとある小国では大統領がクーデターとゲリラの突き上げにあい、秘かに国外脱出を考えていた。問題は莫大な資産をどうやって運び出すかだ。そこで思いついたのが、折しもパリで開催される万国博覧会。ここに城を丸ごとパビリオンとして再現する計画なのだが、城を分解して運び出す際、その城石をくりぬいて中に金銀財宝を詰め込み、こっそり持ち出そうというのだ。
 しかし、この計画はまもなく凄腕の泥棒ユースタスの知るところとなる。彼は一世一代の大仕事に、ヨーロッパ中の腕利きの泥棒、詐欺師、金庫破りたちを集め、これを盗み取ろうとするのだが……。

 一応は、城を盗むという壮大なホラ話が前提のミステリだが、これはもう読者に笑ってもらいたいだけで書いているようなものだろう(笑)。
 一番のキモは、泥棒たちがイギリスやドイツ、フランス、イタリア等、各国混成チームのところ。互いに言葉が通じないことから起こる誤解をドタバタに変換しつつ、アクセル全開でぶっとばしてゆく。おまけにお国柄を揶揄するようなネタもオンパレードで、いまならさしずめ『ヘタリア』のノリか。登場人物も多くて最初はけっこう読みにくいし、やや散漫な印象もあるけれど、中盤に入る頃からは一気。
 オチもかなり笑えるし、暇つぶしとしてはなかなか強力な一冊である。


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 ニューヨーク州の地方都市ウィンストン。ギャングと政財界、役人の癒着は今に始まったことではなく、昔から人々はそれなりに折り合いをつけて暮らしてきた。主人公のティムもその一人。自ら犯罪に手を染めることはなかったが、見て見ぬふりをすることで生きる糧を得、今では街で唯一の私立探偵として、不自由のない生活を送っていた。
 そんなある日、「市政浄化連盟」と名乗る団体から、ウィンストンの汚職を正すべくティムに接触がある。同時にティムの命を狙った事件が立て続けに発生し、いつしかティムは街中を揺るがす大事件のど真ん中にいる羽目になる。

 ドナルド・E・ウェストレイクの長編第二作目『殺しあい』を読む。ハードボイルド界の期待の新星と言われていた頃の作品で、大量殺戮が描かれていることから、ハメットの名作『赤い収穫』とも比較される。ただ、さすがにこの比較は分が悪いとしても、ウェストレイク流の『赤い収穫』も十分に満足できるレベルである。

 ハメットの作と大きく違う点は二つ。
 一つはあそこまで辛口のハードボイルドには至っていないこと。まあ、人は山ほど死ぬのだが、主人公の設定が少々甘口。というのも主人公はギャングではなくあくまで民間の探偵。タフなやりとりには場数を踏んでいても、自ら人を殺めることはない。それどころかクライマックスの大量殺戮が始まった直後は、ショックのあまり相棒にハッパをかけられる始末だ。しかし、こういった機微、つまり一見タフに見えながら、実はデリケートな部分を含む男だからこそ、物語に深みを与えるわけであり、ただの殺伐とした物語にしたくはないというウェストレイクの計算であろうと思う。
 もうひとつハメットと異なる点。そして、これもやはりありきたりのハードボイルドにしたくないという気持ちの表れだと思うが、謎解きの部分が意外なほどしっかりしていることだ。これはデビュー作『やとわれた男』でも同様だが、ちゃんと終盤に関係者を集めて謎解きを行うシーンまである。しかも本作では、登場人物同士で犯人を推理し合うみたいな場面まで盛り込まれているから楽しい。

 残念なのは、登場人物が多すぎるのと、そのせいでキャラクター造形が全般的にやや弱いところ。あれだけの数だとどうしても薄味になるのは避けられないのかもしれないが、主人公のキャラクター以外に印象的な人物が少なく、その面での満足度はちょっと低い。
 そうはいっても全体的には非常に満足できる作品。よくもこの複雑な要素を巧くまとめたなというのが一番の感想だ。意外な犯人の正体と事件の絡繰りがほぼ明らかになったところで、クライマックスの壮絶な戦いにつなげるところもサービスが行き届いている。そして何とも印象的な苦い結末。
 現在のユーモア・ミステリもいいのだけれど、こういうタッチのものも、たまに書いてくれてもいいのにね。


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 なぜか急にモンティ・パイソンが見たくなって、HMVまで出かける。だが残念ながらTV版はなく、仕方ないので再編集された映画版『モンティ・パイソン・アンド・ナウ』を購入。
 中学の頃、ブラックユーモアの何たるかを教えてくれたのが、テレビでやっていた『空飛ぶモンティ・パイソン』だった。それ以来ギャグが面白いかどうかの線引きは、常にモンティ・パイソンだったような気がする。

 ドナルド・E・ウェストレイクの『弱虫チャーリー、逃亡中』読了。元々はシリアスな作品でデビューしたウェストレイクが、コメディ路線に方向転換した最初の作品である。
 主人公はなんの取り柄もなく、就職しては失敗だらけのダメ男チャーリー。今では叔父のとりなしで、しがないバーの雇われマスターをこなす日々だ。ただし、この職には裏がある。ときどき店に出入りする怪しげな男たちに、荷物を橋渡しする役目を負っていたのだ。これこそチャーリーだからこそできた役目。変に好奇心が強かったり山っ気がある人間にはとても務まらないというわけだ。ところがそんなある日、状況は一変する。チャーリーが組織を裏切ったと誤解され、いきなり命を狙われる羽目になる。追う二人組の黒服の男。逃げるチャーリー。おまけに組織のボス殺しの容疑まで突きつけられ、もはや運命は風前の灯火。こうなったら自分の手で犯人を見つけ出すしかないのか!?
 基本はチャーリーの逃亡を軸としたスピード感あふれる犯罪小説。これにコメディタッチの味付けがなされ、おまけにチャーリーが事件を通して成長してゆく様なども盛り込むなど、滅法口当たりのよい作品となっている。最後には関係者全員を集めて謎解きを行うなど、サービス精神も満点。コメディ路線一作目とはいうものの、すでに何の迷いもない完成された作品であるといえるだろう。
 残念ながら長らく絶版中であり、もし古書店で見かけたらぜひ。まあ、何千円も出すほどのものではないけれど。


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 ドナルド・E・ウェストレイクの『骨まで盗んで』を読む。
 ウェストレイクはお気に入りの作家だが、その中でもドートマンダー・シリーズは掛け値なしに面白い。基本的にはユーモアミステリなので、毎回それほど大きな変化があるわけではない。ドートマンダーとその一味が盗みを企てるも、思わぬアクシデントに見舞われて、それを何とかしようとするうちにますますトンデモナイことに……というのがいつものパターンだ。個性的な常連キャラクターも多く、彼らの掛け合いも大きな魅力の一つだろう。

 さて、本作は国連入りをめぐって対立する二国が、その証とすべく聖骨を奪い合うというお話。ドートマンダーたちはその一方の国から聖骨の盗みを依頼されるわけである。特に前半の泥棒失敗劇からドートマンダーの脱出劇までは、一気呵成の面白さだ。
 ただ、問題はこのボリュームだろう。本シリーズも最近のミステリの例にもれず、徐々にページ数が増える傾向にあり、今回もかなりの長さ。そのため途中でややダレ気味となるのが気になった。どちらかというとスピーディーな展開で、カチッと締めてくれる方が、このシリーズには適していると思うのだが。その分だけ、いつもよりは評価が落ちる。


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 『オーシャンズ11』をDVDで観る。ハッキリ言ってしょぼすぎ。あれだけキャストを集めるとえてしてダメダメ映画になるのはよくある話で、これも間違いなくその例に入る。
 まず犯罪計画が大雑把。実行に移す前にたいした説明がないので、それをどうやってクリアしていくのか興味がつなげず、その場その場の行き当たりばったりな印象を受ける。だいたい犯罪計画に11人は多すぎる。しかもプロの犯罪者が少ないので、失敗する可能性が高そうだし、成功しても、後で簡単に足がつくのではないか? 例えばフォーサイスがこういう話を書いたら、計画を進める段階だけでもかなり盛り上がるはず。というか、そういうところが面白いのに。完璧な計画をたて、これがプロの犯罪だ、というところを見せてくれないと説得力もくそもない。11人のつながりも薄く、なぜこのメンツなのかの理由も希薄。おまけにジュリア・ロバーツなんて、ほとんど存在価値なし。もったいないキャストだよなあ。久々に時間を損したって感じの映画でした。

 口直しの読書はドナルド・E・ウェストレイク作『361』。
 軍隊生活を終えて、久々にニューヨークへと帰還した主人公レイ・ケリー。迎えにきた父親で弁護士のウィラードと涙の対面を果たし、故郷へと車へ戻る途中のこと。近づいてきた車から発砲され、父親は即死。助手席に乗っていたレイも右目を失ってしまう重傷となる。しかもその直後、レイの兄、ビルの妻も自動車事故で死んでしまうという出来事が起こり、兄弟はこれらの事件の背後にある何かを突きとめようと調査に乗り出してゆく。
 いわば復讐談になるのだが、ウェストレイクの初期のハードボイルドの例に漏れず、その味わいは絶品。興味をそぎそうなので詳しくは書かないが、どう転ぶのか予測しにくいストーリー展開が良い。主人公の性格も最初はなかなかつかみにくく、それもあって余計に予想を外されてしまう。そして、それらを演出する暗く乾いた感じの文体。すべてが心地よいのである。
 ハードボイルドだがラストの意外性も高く、まさにこの時期のウェストレイクが期待の超新星だったことがよくわかる一冊。この辺の作品が軒並み絶版というのは大変もったいない話だ。早川書房さん、なんとかしたほうがいいよ。

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 昨晩の雷雨が雲を吹き飛ばしたせいか、朝から気持ちよい晴天。しかし風が恐ろしく強い。午後から仕事で横浜に行ったのだが、訪問先のビルにある駐輪場はとりわけ強風地帯で、五十台近くの自転車がきれいに将棋倒し。なかなかの壮観だが、誰かのいたずらじゃないよな?

 さて本日の読了本はドナルド・E・ウェストレイクの『その男キリイ』(ハヤカワ文庫)。先日読んだ『やとわれた男』同様、ウェストレイク初期のハードボイルドのひとつであり、それなりの期待を込めて読む。
 主人公は大学で経済学を学びつつ、実習生としてある労働組合で働くことになったポール。小さな田舎町から組合の組織作りを依頼された上司キリイとともに、現地に赴いた。ところが到着早々に依頼者が殺されるという事件が起こり、二人は容疑者として逮捕されてしまう。その後なぜか一人釈放されたポールだが、事態はさらに混迷を窮めていく……。
 読み終えてまず感じるのは、とにかくウェストレイクは登場人物の造形が絶品であるということ。ハードボイルドとはいっても、今回の主人公ポールはまだ学生。仕事や将来に希望を持つ若者であり、その視線はまっすぐ前に向けられているが、世慣れていないその行動は甚だ心許ない。こんな主人公の設定だとともすれば青臭さばかりが先に立って(ま、実際、青臭いんだけど)ハードボイルド本来の面白みとはかけ離れてしまうのだが、そこを逆手に取って主人公の言動に説得力をもたせ、物語に深みを与えている。
 脇役もいい。ポールが拘留されたときに話し相手になるウイリック警部、組合の用心棒として派遣されてきたジョージ、キリイの上司にあたるフレッチャーなどなど。
 そして何といっても、原題にもなっている上司のキリイだ。ポールの目から見たキリイは人間的な魅力にあふれ、理論だけでなく仕事もできる男として描かれる。ポールが尊敬するといってはばからないほどの人間だ。ところが物語が進むにつれ、その本性が少しづつ明らかになる。ポールの目から見たキリイ像、そして読者の目から見たキリイ像が次第に変貌していく様は、予想できそうで予想できない。
 ミステリを読み慣れた者なら何となく予想できたつもりになる。ついでに言えば、事件を通して主人公が成長してゆく物語であろうということも想像できる。
 ところがウェストレイクはその予想を微妙にかわしてくれる。この辺の加減と最後のかわし方が絶妙なのだ。実は事件の謎自体はそれほど深いとは言えない。しかし小説そのものがある種の仕掛けをはらんでおり(そんな大げさなものじゃないんだけどね)、ラストで『キリイ』という原題の意味に気づいたとき、何とも言えぬ余韻を残すのである。傑作。
 
「あんたら頭のいい若者は、出世するためには何でもしようとする。でも本当はそうじゃない。あんたらは仕返しのために何でもしようとするんだよ」byジョージ

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