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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

アレクサンドル・ベリャーエフ『ドウエル教授の首』(創元SF文庫)

 上野の森美術館でやっている「怖い絵」展を観にいきたいのだが、公式ツイッターで待ち時間を調べると九十分とか普通に出てくるので、なかなかその気にならない。せっかくの休みなのでここらで消化しておきたいが、みな考えることは同じだしなぁ。
 とりあえず今日の様子をみてから、明日以降に計画を変更して、本日はとりあえず「神田古本まつり」に出かけたが、こちらはもう一週間ぐらい経っていることもあって、お安いところでの目ぼしいものはなし。しょうがなく笹沢左保の未所持で安いものをつかんで帰る。


 本日の読了本はアレクサンドル・ベリャーエフ『ドウエル教授の首』。
 再読。とはいっても小学生の頃に子供向けで読んで以来だが、昨年、創元から復刊されたのを機に懐かしくて買っておいたものである。幸か不幸か、生きた生首の話という設定は覚えていたが、それ以外はさっぱり記憶に残っていないので、今回はだいぶ新鮮な気持ちで読むことができた。

 こんな話。パリのケルン教授に雇われたマリイ・ローラン。彼女が任された仕事は、なんと胴体から切り離された生首、しかも生きている首の世話であった。不気味な任務ではあったが、その科学的偉業に驚きつつ、仕事をこなすローラン。
 だが、やがてその首と会話を交わすようになり、彼女は首の持ち主が最近亡くなったばかりの高名な外科医ドウエル教授であることを知る。首だけを生かせておく実験は、実はドウエル教授の研究の成果であり、それをケルン教授が横取りしていたのだ……。

 ドウエル教授の首

 うわあ、むちゃくちゃ面白いではないか。
 ほとんど中身を覚えていないこともあって、ロシアの古いSF作品だからもっと辛気臭い話かと思っていた。そもそも生首を生かしておくという設定なので、首を生かしておくということに関しての倫理的な問題や、首だけで生きることの苦悩などを描いたものかと予想していたのだ。
 いやいや、それどころかがっつりエンタメである。誤解を承知で書くと、これはもう完全に変格探偵小説の世界ではないか。海野十三とかのSFを連想してもらうと一番しっくりくるだろう。

 確かに序盤こそヘビーな雰囲気を漂わせるのだが、ケルン教授がさらに二人の首を蘇生させ、そして他の胴体を入手して首をつなげ合わせ、まるでフランケンシュタインのように合成した人間を復活させるあたりから、方向性がかなり怪しくなる。
 復活した人間はもともと酒場のダンサー。体を手にいれた彼女はケルンの目を盗んで病院から脱走してしまうのだが、その彼女の前に現れたのが、「胴体」の持ち主の恋人だったアルマン。彼はかつての恋人とそっくりの体や動きをする女性が気になり、友人にそれを相談する。その友人というのがなんとドウエル教授の息子アルトゥールというのだから、偶然もたいがいにせえよとは思うのだが(苦笑)、物語に勢いがあるので多少の御都合主義は気にならない。ストーリーの面白さの方が全然勝っているのである。
 この後、アルマンとアルトゥールはドウエル教授を救うために活躍するわけで、さらに激しく物語は展開し、まったく退屈するところがない。

 ラストがややあっけないところは残念だが、いや、さすがにこれだけやってくれれば十分。1937年のロシア産SF、侮れません。


プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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