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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

極私的ベストテン2017

 2017年も本日でお終い。仕事も読書もまずまず順調な一年ではあったが、今月は諸般の事情で例年以上に忘年会が多く、ややグロッキー気味である。仕事納めは28日だったが、その週もほぼ連日飲み会が続き、ようやく休暇になっても29日、30日は自宅の大掃除でもうヘロヘロ。大晦日の本日はようやく少しゆっくりできて、こうして今年最後のブログ更新などやっている。

 さて、今年最後のブログ更新は年末恒例「極私的ベストテン」。
 管理人が今年読んだ小説の中から、刊行年海外国内ジャンル等一切不問でベストテンを選ぶというもの。近年のベストテン級作品の読み残しをさらったせいで、今年は昨年に続いて非常に苦労したのだが、なんとかまとめてみた十冊がこちら。

1位 陳浩基『13・67』(文藝春秋)
2位 ケン・リュウ『母の記憶に』(新ハヤカワSFシリーズ)
3位 デニス・ルヘイン『夜に生きる』(ハヤカワミステリ)
4位 アンデシュ・ルースルンド、ステファン・トゥンベリ『熊と踊れ』(ハヤカワ文庫)
5位 陳舜臣『炎に絵を』(出版芸術社)
6位 ジョー・ネスボ『その雪と血を』(ハヤカワミステリ)
7位 ジョルジョ・シェルバネンコ『虐殺の少年たち』(論創社)
8位 吉屋信子『鬼火・底のぬけた柄杓』(講談社文芸文庫)
9位 アレクサンル・ベリャーエフ『ドウエル教授の首』(創元SF文庫)
10位 笹沢左保『人喰い』(中公文庫)

 いやあ、苦労した。今年はとりわけ選ぶのに苦労してしまった。上でも書いたがここ数年の翻訳ものの読み残しをぼちぼち拾っていったせいでむちゃくちゃハイレベルになってしまい、R・D・ウィングフィールド『フロスト始末』まで圏外という始末である(苦笑)。
 もちろん『フロスト始末』がつまらないというわけではなく、管理人の好みがあったり、その作品がもつオリジナリティやユニークさをけっこう意識して選んでいるため、なかには他人が読んだら「え?」というものも入っている。まあ、そういうところも含めて、極私的ベストテンなのであしからず。

 1位の『13・67』は今年の翻訳ものの大収穫。香港発の警察小説ということで、その稀少性はもちろん警察小説としてもハイレベル、しかも本格としてもキレッキレの一作。これだけのオリジナリティを高いレベルで発揮されては、さすがに一位以外は考えようがなかった。

 2位はケン・リュウの邦訳短編集第二作。バラエティ感やエンタメ度の高さでは、大ブレイクを果たした『紙の動物園』以上である。

 3位&4位はは犯罪小説枠。前者はプロフェッショナル、後者はアマチュアが主人公だがどちらも読みどころ満載でこれまた文句なしに楽しめる作品である。

 翻訳物に押されがちな今年の極私的ベストテンだが、その一角を崩したのが5位に入った陳舜臣。シリーズものも悪くはないが、この作品は別格であろう。

 6位は初めて読んだネスボ作品。殺し屋を主人公にしたパルプ・ノワールで叙情性にあふれる作品だが、それに身を委ねていると思わぬ背負い投げを食らってしまうこの快感。

 7位の『虐殺の少年たち』はイタリアミステリ界の父の傑作。知名度は落ちるが、もっと読まれてほしいし、もっと翻訳されてほしい作家だ。

 8位の吉屋信子は昨年もちくま文庫の怪談傑作選を入れたが、この人の狙う間接的な恐怖へのアプローチがとにかく怖いし巧い。

 9位は子供向けで読んだときの印象が強く、かなり思い出補正はかかっているのだが、いやいや今読んでも十分素晴らしい。序盤のSF的な設定の興味から中盤以降の冒険小説的な展開まですべてが面白い。

 ラストは今年の個人的注目株、笹沢左保から。初期長編を立て続けに読んでいずれもよかったが、サスペンスのお手本として本作をチョイス。

 以上十作が2017年のベスト。ただし、涙をのんで外した作品もまた多いわけで、以下、順不同で挙げておくと、シャーリイ・ジャクスン『なんでもない一日』(創元推理文庫)R・D・ウィングフィールド『フロスト始末』(創元推理文庫)R・オースティン・フリーマン『オシリスの眼』(ちくま文庫)梶龍雄『リア王密室に死す』(講談社ノベルス)フリードリッヒ・デュレンマット『約束』(ハヤカワ文庫)新羽精之『新羽精之探偵小説選II』(論創社)マーガレット・ミラー『雪の墓標』(論創社)多岐川恭『お茶とプール』(角川小説新書)J・J・コニントン『レイナムパーヴァの災厄』(論創社)マイクル・コナリー『転落の街(下)』(講談社文庫)あたりは読んで損はない。

 さらに小説以外では、戸川安宣『ぼくのミステリ・クロニクル』(国書刊行会)木原善彦『実験する小説たち 物語るとは別の仕方で』(彩流社)フランシス・M・ネヴィンズ『エラリー・クイーン 推理の芸術』(国書刊行会)喜国雅彦、国樹由香『本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド』(講談社)がいずれも力作ぞろい。ミステリや小説のお勉強をするなら、こういう本もぜひ、という一冊である。

 ということで今年も探偵小説三昧、いよいよお別れの時間となりました。今年も管理人のお遊びにおつきあいいただき、本当にありがとうございます。来年もどうぞよろしくお願いいたします。
 それでは皆様、よいお年を!

プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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