先日の一巻目に引き続き、論創ミステリ叢書から『平林初之輔探偵小説選II』を読む。
収録作は以下のとおりだが、下記のほかに山のような随筆・評論の類が収録されており、なんと本書四百ページのうち半分の二百ページをそちらが占める。
【創作編】
「アパートの殺人」
「夏の夜の冒険」
「二人の盲人」
「鉄の規律」
「謎の女」(未完)
「悪魔の聖壇」
「呉田博士と与一」(ジュヴナイル)
【翻訳編】
「鍵」(リズリー・ウッド作)
「ジャックリイン」(アンリ・ヂユヴエルノワ作)

『平林初之輔探偵小説選I』の感想でも書いたが、著者は作品ごとにきちんと小説としてのテーマを設定し、それを物語としてちゃんとまとめているのがいい。小説としてのテーマとは、ミステリのそれではなく、あくまで文学としてのテーマだ。著者は本格的な探偵小説をめざしたが、それはいわゆるロジックとトリックを重視する本格“探偵小説”ではなく、謎の解明を通して人間や社会を描くことに主眼を置いた、本格探偵“小説”ではなかったか。
そういった主張の数々を、理論(随筆・評論)と実践(創作)という形でまとめたのが、この第二巻ということができるだろう。創作も当時のものとしては決して悪くないのだが、とにかく随筆・評論の筆先が滅法鋭く、探偵小説に対する期待が大きいだけにその反動も大きかったのだろうかという気がする。
以下、簡単に各作品の感想など。
「アパートの殺人」は奔放な性格の女優が殺害される事件。関係のあった愛人たちの証言が順に展開される様子がユーモラスだが、真相は(当時であれば)ちょっと意外なところを狙っていて面白い。
「夏の夜の冒険」は児童虐待を扱っており、後味の悪さが強烈。だが、こういうテーマはこれぐらいのインパクトがないと確かに意味がない。もし著者が早世していなければ、こういうものを極めていってほしかった気がする。
「二人の盲人」はタイトルどおり二人の盲人の対決を描く。設定こそスリリングだが、特にミステリ的な捻りもない凡作。
「鉄の規律」は秘密結社ものというか、当時の共産党がモデルなのだろうが、その興味で読む分には悪くない。
「謎の女」は主人公が旅先で見知らぬ女性から、しばらく仮の妻にしてほしいと頼まれる物語。導入はなかなか面白いが、残念ながら本作は遺稿として発見された未完の小説。解決編はのちに公募され、解決編と合わせて『怪奇探偵小説集(正)』(双葉文庫)、その再販である『怪奇探偵小説集I』(ハルキ文庫)で読むことができる。
「悪魔の聖壇」は教会で懺悔する男の告白が思いがけないことに……という一席。結末は予想しやすく、まあまあといったところ。
ジュヴナイルの「呉田博士と与一」はネタそのものより親子の会話だけで完結しているところが少々物足りない。まあ読めただけでも儲けもんという作品なのだけれど。