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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

桜田十九郎『桜田十九郎探偵小説選』(論創ミステリ叢書)

 ぼちぼち読み進めていた『桜田十九郎探偵小説選』を読み終える。
 管理人にとっての桜田十九郎はほとんど未知の作家だが、解説によると、主に第二次世界大戦中の『新青年』で活躍していた作家だ。『新青年』では冒険小説の類いを中心に発表していたが、戦時中は探偵小説が書けない状況だったので仕方なくそちらに転向したというわけではなく、もともと桜田は大衆小説でデビューしており、基本的には冒険小説が専門の作家だったようだ。古くは押川春浪、昭和の初めには南洋一郎や橘外男、小栗虫太郎らが秘境ものとして書き継いだ路線を想像してもらえればよいだろう。

 桜田十九郎探偵小説選

「鉄の処女」
「燃えろモロッコ」
「髑髏笛」
「めくら蜘蛛」
「女面蛇身魔(ラミア)」
「呪教十字章」
「沙漠の旋風」
「五時間の生命」
「蛇頸龍(プレジオサウラス)の寝床」
「屍室(ししつ)の怪盗」
「悪霊(バデイ)の眼」
「唖の雄叫び」
「魔女の木像」
「落葉の岩窟」
「恐怖の水廊」
「青龍白虎の闘争」
「哀恋佃夜話」
「幇間(たいこ)の退京」
「夏宵痴人夢」

 収録作は以上。「鉄の処女」から「恐怖の水廊」が冒険小説。「青龍白虎の闘争」以下の四編は冒険小説を書く前の大衆小説などの作品である。
 さて、ひとくちに冒険小説とはいってもけっこう幅は広いのだけれど、当時の日本で書かれた冒険小説の場合、大きくは防諜系のものと、秘境系のものに分けられるのではないか。
 軍事を背景にした防諜系の冒険小説はいろんな方面に向けた忖度を含んだ読み物のため、いま読むとさすがに辛いものが多いが、秘境系の冒険小説はある程度までは自由な発想で書かれており、意外に風化することが少ないように思う。桜田十九郎の場合はまずまず後者にあたるとは思うのだが、それでもその代表格の橘外男や小栗虫太郎、香山滋らの作品に比べると独特の妖しさに欠けており、物足りなさは否めないところだ。
 まあ、妖しさはともかくとして、冒険小説としてはけっこうストレートすぎるか。多少なりともどんでん返しなどが盛り込まれた作品はぐっと面白みが増しているので、全般的にもうひと工夫でもあれば戦後の需要も高まったのではないだろうか。


プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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