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 昨今のミステリの復刊ブームでだいぶ改善はされたが、それでもまったく読んだことのない作家、読むことのできないクラシック系の作家というのは今でも決して少なくはない。
 夫婦合作でミステリを書いたG・D・H & M・コールもそんな作家の一人(いや、夫婦だから二人か)で、三十作以上の著書があるというのに、現在の日本ではほぼ無名の存在。昔のミステリガイドブックなどを読むとたいていこの著者の『百万長者の死』が紹介されていた記憶はあるし、ほかにも数冊の邦訳はあるのだが、よほどのマニアでもないかぎり、読んだことのある人はそうそういないだろう。

 そんなコール夫妻の短編集『ウィルソン警視の休日』が論創社から刊行されたのが2016年のこと。原書は1928年刊行なので、なんと八十八年ぶりに日の目を見た新刊ということで、これを快挙と言わずしてなんと言おう。
 本日の読了本は、その『ウィルソン警視の休日』である。

 ウィルソン警視の休日

In a Telephone Cabinet「電話室にて」
Wilson's Holiday「ウィルソンの休日」
The International Socialist「国際的社会主義者」
the Disappearance of Philip Mansfield「フィリップ・マンスフィールドの失踪」
The Robberyat Bowden「ボーデンの強盗」
The Oxford Mystery「オックスフォードのミステリー」
The Camden Town Fire「キャムデン・タウンの火事」
The Missing Baronet「消えた准男爵」

 収録作は以上。本の題名が『ウィルソン警視の休日』なのに、短編の題名が「ウィルソンの休日」となっているのが不思議だが、これは間違いでもなんでもなく、原作でもそれぞれ『Superintendent Wilson's Holiday』「Wilson's Holiday」となっている。実際の理由はわからないけれど何となく著者や編集者のこだわりみたいなものを感じられて楽しい。

 ま、それはともかく。本作はコール夫妻が生み出した探偵、ウィルソン警視(のちに私立探偵となり、そののちにはなぜか警視に復帰)を主人公とする本格ミステリの短編集である。
 全体的な印象としてはクロフツやジョン・ロードを思わせる。実際、コール夫妻もまた彼らと同じように退屈派の一員として名前をあげられた実績もあるわけで(苦笑)、本格とはいえ派手なトリックとは無縁。地道な捜査をもとに推理を組み立てて真相に近づいてゆくタイプである。
 ただ、地味なのは別にかまわないのだが、本格にしてはけっこう雑なところもあったりして、クロフツらに比べても全体的な物足りなさは否めない。トリックにこだわらないのなら、せめてガッツリとロジックを打ち出してくれてもいいのだが特にそういうこともなく、現代物の強い刺激に慣れた読者には少々おすすめしにくいのは事実だ。

 ただ、この時代の本格ミステリにどこまでそれらを求めるかという問題はある。リアルな物語や深刻な小説、ましてやマニア相手のガチな本格を求める人は、そもそも本書を手にとってはいけないのだろう。
 当時の本格ミステリは、読者の余暇や人生を豊かにする娯楽としての犯罪劇である。実生活では味わえない特殊なスリルや好奇心を満たしてくれるものなので、まずはその雰囲気を味わうべきだろう。そういう意味では決してつまらない物語ではなく、設定や物語の導入からけっこう引き込まれる作品も少なくない。
 むしろ個人的に気になったのは、語りの味気なさやストーリー展開の拙さか。英国本格ミステリというのはこの辺が味わい深いので多少の粗も許せるのだが、本書はここが意外に弱い。語りがもう少し巧みであれば、コール夫妻はもっと評価されたんではないだろうか。

 好みの作品をあげるなら、まずは「電話室にて」。これは創元推理文庫の江戸川乱歩/編『世界推理短編傑作集3』(旧版は2巻)に「窓のふくろう」として収録されているぐらいなので、やはり代表作といっていいだろう。真相に気づくポイントが奇妙な味風で、乱歩が気に入ったのも案外そのあたりが理由なのかもしれない。
 表題作「ウィルソンの休日」も印象は強いが、それはやはり休暇中にウィルスン自身が巻き込まれた事件という設定の妙にあるだろう。この作品もけっこう荒っぽい感じなのだけれど、ストーリーがすこしよくなるだけで二割り増しぐらいに面白く感じられる。ウィルソンの姪の夫が容疑者となう「ボーデンの強盗」もその系統。
 あとは「消えた準男爵」あたりがまずまずしっかりしたレベルを保っていて印象深い。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



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