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 サー・エドムント・C・コックスの短編集『インド帝国警察カラザース』を読む。クラシックミステリの翻訳を手掛ける平山雄一氏が、個人で発行しているヒラヤマ探偵文庫からの一冊。

 コナン・ドイルのホームズ譚が成功したことを受けて、当時、数多くの「シャーロック・ホームズのライバル」が誕生したが、本作のジョン・カラザース・シリーズはその中でもとびきりの異色作となる。
 舞台がなんとインド。しかも時代は二十世紀初頭なので、当時はイギリス領インド帝国である。早い話がイギリスの植民地だった時代のインドを舞台にしたミステリなのだ。一見するとキワモノっぽいが、なんと著者自身がインドでの警察官として働いた経験があり、その経歴が存分に活かされた作品なのだ。
 収録作は以下のとおり。

The Fate of Abdulla「アブドラの運命」
The Rajapur「ラジャプール事件」
The Priest and the Parchment「僧侶と羊皮紙」
The Sin of Witchcraft「魔法の罪」
The Stolen Despatch「文書盗難事件」
Tantia Maharajah「タンティアのマハラジャ」
Romeo and Juliet「ロメオとジュリエット」
The Dutch Engineer「オランダ人技師」
The Cotton Consignment「綿花の荷物」
The Wheels of the Gods「神々の車輪」
The Horns of a Dilemma「前門の虎」
The Last Story「最後の話」

 インド帝国警察カラザース

 いや、これは楽しい。
 白人支配による当時のインドにおいては、警察機構の要職も白人が就き、本作の主人公ジョン・カラザースも本部長を務めている。在任期間中は数々の州に赴任し、各地で難事件を解決するというのが大まかなストーリーである。
 書かれた時代が時代だし、これまで埋もれていたことを考えると、出来に関してはそれほど期待していなかったのだが、いや、これは良い意味で裏切られた。
 そこまで驚くようなアイディアはないけれども、基本的なミステリの定石やツボは押さえているのが好印象。ホームズものの影響はここかしこに感じられるものの、当時のインドだからこそ起こりえた犯罪、生まれた動機などを見事にミステリとして消化させており、オリジナリティは抜群。欧米諸国のミステリでは絶対に味わえない楽しみがある。
 当時のインドは混沌の地だ。今のインドよりも広い国土をもち、そのなかでさまざま人種、宗教、制度があり、そこに白人たちがもちこんだ思想や文化や仕組みが混じり合っている。そういった状況のなかで、ともすると法律のもつ意味は低くなるのだが、主人公のカラザースは武力ではなく、あくまで叡智でもって事件を解決するのがよい。ただ、権力はけっこう使うけれど(笑)。

 気になる点もないではない。
 特に引っかかったのが、探偵役カラザースの一人称で書かれていることだ。
 ハードボイルドならまだしも、本格ミステリで主人公の一人称というのは、読者に対する情報の開示という点で、推理の過程などが変にぼかされてしまう。そのくせ感情の動きはストレートに伝えてくるので、(アンフェアとまでは言わないが)ややスッキリしないというか若干の消化不良感が残るのがもったいない。
 物事を客観的に語っていくワトスン役の存在は、確かに重要なのだ。というか、本作の場合、ワトスン役の設定は難しいだろうから、普通に三人称でよかったのではないだろうか。

 あと、主人公カラザースをはじめとする白人たちの特権階級意識や差別、偏見などがひんぱんに描写されるので、人によってはかなり不快に思うかもしれない。
 ただ、これは歴史的な事実でもあり、当時の偽らざる状況。同時代の、それこそホームズものだって根底では似たようなレベルなのだが、本作の場合は舞台が舞台なだけに、より強調されてしまうのは致し方あるまい。
 ここは変にめくじらを立てたり嘆いたりするのではなく、むしろ当時のリアルな情報がこうして文章として残っていることにより価値を見出すべきではないだろうか。

 個々の作品で印象に残ったのは、まず「アブドラの運命」。キャンプ生活を送るカラザースのもとへ、鉄道橋を監視する仕事に就く男が、行方不明になった甥を助けてくれと懇願してくる。それこそインドでなければ成立しない作品で、動機も面白い。この冒頭の作品で気持ちを一気にもっていかれる。

 「文書盗難事件」はイギリス人総督の屋敷から盗まれた公式文書を探す事件。ポオの「盗まれた手紙」っぽいなと思っていたら、なぜか一緒にバナナが盗まれるという手がかりがあり、ポオはポオでもあっちの事件であった(笑)。

 「タンティアのマハラジャ」は義賊もの。名探偵カラザースがいっぱい食わされる展開が興味深く、そういった着想やストーリーの面白さ重視の部分が、ある意味、ホームズの正当なライバル(あるいは系統)であることを実感させてくれる。

 「ロメオとジュリエット」はまあラストの予想はつくのだけれど、けっこうストーリーが面白く、本当に「ロメオとジュリエット」まんまである。

 「オランダ人技師」は機械の修理を頼まれたオランダ人技師の奇妙な事件。解説にもあるとおり、コナン・ドイルの「技師の親指」を彷彿とさせるが、「赤毛組合」の読後感とも共通するものがあって好きな作品。

 「最後の話」は唯一、カラザースがイギリスに帰ってきてからの話。ミステリとしてはけっこうな禁じ手を使っているが(苦笑)、まあ、後味もよいし、最後の作品として大目にみてあげてもいいだろう(笑)。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



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