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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

森咲郭公鳥、森脇晃、kashiba@猟奇の鉄人『Murder, She Drew Extra: Carr Graphic Vol.1 The Dawn of Miracles』(饒舌な中年たち)

 森咲郭公鳥、森脇晃、kashiba@猟奇の鉄人の三氏によるミステリの絵解きガイドブックもこれが四冊目。いよいよジョン・ディクスン・カーの本格長編の登場である。歴史ものはすでに二冊目の『Murder, She Drew Vol.2 Notes of the Curious, by the Curious, for the Curious』で取り上げているので、今後はそれ以外の長中篇およそ六十作品ほどを増刊という形でまとめていくらしく、本書では1930〜1934年の作品十二作を扱っている。

 Carr Graphic Vol1 Dawn of Miracles

 中身についてはもう四冊目ということもあって著者もかなり手慣れたものだ。こちらもすっかりお馴染みのフォーマットだから、もうあまり付け加えることもない。とりあえずカーのファンなら絶対に買うべきだし、イラストもテキストも十分に楽しめる。
 おそらく以前にも書いているけれど、犯行現場や作品の舞台をイラスト化するというのは、今までにもなかったわけではない。だがテーマに沿って、これだけのボリュームで一冊にまとめてしまうのが素晴らしい。この本のおかげでスッキリした場面もあるし、実際の読書の際には極めて便利だ。
 また、鼎談として、そのイラストを見ながらマニアがああだこうだとツッコミ、かつボケ倒すのも楽しい。もちろん筋金入りのマニアの会話なので、単に楽しいだけでなく、新訳と旧訳の違いなどもネタにあげるなど参考になることも多い。絵師さんだけはそこまでディープなミステリ読みではないようだが、マニアとは違った視点での感想が入るのもいい点だろう。

 絵師といえば、本書でちょっと気になって前の三冊を少しパラパラ眺めてみたのだが、明らかにイラストの分量が増え、より細かく描くようになっているのがわかる。この企画が続くかどうかは、おそらく絵師・森咲郭公鳥氏の体力と気力次第だろうなあ。
 ともかくこの品質で年一冊ペースというのが偉い。作業的に換算すると単純計算でひと月につき一作品ということだが、つまり毎月一冊のカー作品を読み、イラストを仕上げ、鼎談をやって原稿をまとめなければならない。現状はミステリファンクラブ「SRの会」の会報誌とWebで毎月交互に発表しているようだが、これはつまり「多少遅れてるけれど文学フリマやコミケまでに間に合えばいいや」とかではなく、定期的に毎月締め切りがやってくるということ。こうなると業務内容的にはまったく商業誌レベルである(笑)。いや大変だわ、これは。

 ついでに書いておくと、価格も実に良心的。おそらく同人誌として出すだけでは赤字だろうし(黒字だったらごめんなさい)、完結後には商業出版化を考えてもいいのではないかなあ。絶対、手を上げる編集者はいるはず(というか、水面化ではすでにいるような気もする)。
 まあ、この辺は管理人がほぼ妄想で書いているので、実際の座組みがどういうものかはわからない、あくまで話半分で呼んでくだされ。ともかく第三者としては素直に本を楽しませてもらうのみ。今後も体に気をつけて無理のない範囲で頑張っていただきたいものである。

森咲郭公鳥、森脇晃、kashiba@猟奇の鉄人『Murder, She Drew Vol.3 Connect with Fiends and the World around You on Fredric Brown』(饒舌な中年たち)

 森咲郭公鳥、森脇晃、kashiba@猟奇の鉄人の三氏によるミステリ同人誌〈Murder, She Drew〉シリーズの三作目、『Murder, She Drew Vol.3 Connect with Fiends and the World around You on Fredric Brown』を読む。
 世間は『Carr Graphic Vol.1 Dawn of Miracles』に注目している頃だろうし、なんで今頃これかと思われるだろうが、実は本書発売当時、完全に予約を入れ忘れて未入手だったのである。それが『Carr Graphic Vol.1 Dawn of Miracles』予約時にダメもとで聞いてみたところ、なんと在庫があるというではないか。ということで遅ればせながらようやく入手できたものである。めでたしめでたし。

 Murder, She Drew Vol3 Connect with Fiends and the World around You on Fredric Brown

 さて、毎回、事件の舞台となる町や建物といった現場をイラストで描き起こし、さらにマニアが三人であーだこーだ感想を言いあう〈Murder, She Drew〉だが、その三冊目はフレドリック・ブラウンを取り上げている。しかも柱はエド&アム・ハンター・シリーズ。
 ううむ、相変わらず扱うテーマがいいところを突いている。一回目はエドマンド・クリスピン、二回目は巨匠ディクスン・カーの歴史もの。海外ミステリファンなら一冊ぐらいは読んでいるあたりを取り上げつつ、でもなかなか全作読破しているマニアはいない辺りというか。しかも商業出版されている評論やガイドの類がほぼないところというのもいい。管理人もブラウンは一応十冊近くは読んでいるが、エド&アム・ハンター・シリーズは『アンブローズ蒐集家』しから読んでいないという体たらく。いや、一応全部持ってはいるんですが(苦笑)。

 あと言うまでもないことだが、この〈Murder, She Drew〉シリーズは単純にレベルが高い。絵も文も含めて実力的にはプロに匹敵する方々、それでいてマニアならではの遊びやアホなギャグ(褒めてます)を織り交ぜる、かつ作品&作者の長所短所を織り混ぜ、出版社やプロの書評家ではちょっと言いにくいところまで抉ってくる。そのバランスが商業誌に真似できないところギリギリで成立してて実に楽しい。
 また、三人というのは大きな武器で、一人がけなしても一人が褒めるという具合に、こういう部分もどこまで意図しているかは不明だが、一応配慮はされているように思う。

 ということでフレドリック・ブラウンの長編ぐらいはやはり全部読んでおこうかな、いつになるか知らんけど。

森咲郭公鳥、森脇晃、kashiba@猟奇の鉄人『Murder, She Drew Vol.2 Notes of the Curious, by the Curious, for the Curious』(饒舌な中年たち)

 森咲郭公鳥、森脇晃、kashiba@猟奇の鉄人の三氏によるミステリ同人誌『Murder, She Drew Vol.2 Notes of the Curious, by the Curious, for the Curious』を読む。
 この御三方は昨年、エドマンド・クリスピンのガイドブック『Murder, She Drew Vol.1 Beware of Fen』をもってミステリ系同人に名乗りをあげたのだが、やはりマニア度が違うというか遊び方に年季が入っているというか、しかも三人という数的有利もあって、出来上がった本はレベルも高く非常に楽しい一冊だった。
 その御三方の最新刊、〈Murder, She Drew〉の第二弾となるのが『Murder, She Drew Vol.2 Notes of the Curious, by the Curious, for the Curious』である。
 取り上げる作家は、なんとジョン・ディクスン・カー。しかも歴史ものにテーマを絞ったガイドブックである。

 Murder, She Drew Vol 2 Notes of the Curious, by the Curious, for the Curious

 構成自体は前作を踏襲しており、地図や見取り図、著者三氏による鼎談というスタイルは変わらない。しかし単純に扱う冊数が多いうえ、森脇晃、kashiba@猟奇の鉄人の両氏とも最も敬愛する作家がカーということもあって、前作以上に力が入っている。
 ボリュームは二倍近い284頁、おまけに地図×2枚やポストカードがつき、別料金ではあるが小冊子やTシャツまで揃っている。これはかなりの作業量であり、本業のかたわらということを考えると相当にヘビーな感じだが、これも三人体制という強みだろう。
 だいたいが同人活動というものは一人で黙々とこなすことが多く孤独な作業である(その積もったものがコミケや文フリというハレの場で爆発するわけだけど)。しかし、複数の共同作業なら士気も上がるし、責任感みたいなものも出てくるので、これは意外におすすめのやり方ではないか。今後、参戦を考えている人は一考の価値があるかもしれない。ただ、よほど気心の知れたメンバーでないと、逆にトラブルの元にもなるのでその辺はくれぐれもご注意を。

 肝心の中身だが、やはり得意分野だけあって、より面白さもアップした感じである。
 例えば本書で紹介するカーの歴史ものは全部で十五冊あるのだが、この並びも初心者や再読者が楽しめる順番ということに配慮して決めたらしい、
 で、トップバッターが『ロンドン橋が落ちる』なのだけれど、これを最初にした理由が、カーの歴史もので一番つまらないから(笑)。SRの会というミステリマニアの老舗ファンクラブがあり、その例会で最下位をとってしまったらしい。だから、まず最初にこれを読んでおけば、以後、どの歴史ものを読んでも面白く感じるはずだということのようだ(笑)。
 とまあ、全編こんな具合で、マニアならではの情報&ギャグが楽しいし、役にも立つ。商業誌ではいろいろな制限や忖度もあって書きにくいことが、同人では遠慮なく書けるところも強みだろう。

 もう一ついいところを書いておくと、これも前作よりパワーアップしたイラストの数々。著者のうち森咲郭公鳥の担当のようだが、作品ごとの地図と犯行現場、その他の参考イラストは、冗談抜きで今後のカーを研究する人には役に立つのではないだろうか。
 最近はあまり流行らなくなったのかもしれないが、昔の本格ミステリにはよく犯行現場の見取り図がついていた。あれでも十分にワクワクしたし、何よりけっこう読書の助けにもなるのである。ただ、今時では見取り図だけだと若干味気ない感じもするので、できれば多少は精度が落ちてもイラスト形式で地図や館の見取り図を載せたほうがいいなあと個人的に思う次第。これは本格ミステリのみならず希望するところだ。
 まあ、それはともかくとして、かように本書の地図と犯行現場のイラストは素晴らしい。また、そういう大きなイラストだけではなく、いわゆる捨てカットについても悪くない。コミックの同人誌ならいざ知らず、文学系の同人誌でここまでふんだんに捨てカットを使うという贅沢は普通許されない(笑)。これも身内にイラストレーターがいる強みであり、できれば御三方にはこの体制を崩さず続けてもらいたいものだ。

 ということでさすがの一冊。管理人もカーについては、それこそ歴史ものを中心に十数冊未読があるので、背中をいいタイミングで押してもらった感じである。感謝。

森脇晃、森咲郭公鳥、kashiba@猟奇の鉄人『Murder, She Drew Vol.1 Beware of Fen』(饒舌な中年たち)

 昨今では同人に対する取り組み方もずいぶん変化してきたようなイメージがあるが、それはミステリも御同様。従来はあくまでアマチュアのお楽しみというか、二次創作だったりのファンジン中心だったと思うのだが、最近はクラシックの復刻や評論も多く、商業出版顔負けの内容である。なかには盛林堂さんのようにほとんどプロといってよい特殊なものまで。
 もちろん、そういう活動はこれまでもあったのだろうが、近年はインターネットの普及でよけい目につくようになったことは間違いない。内輪で頒布して終わり、というのではなく、より幅広く同好の士に宣伝し、販売も容易にできるようになっているのだ。

 Murder, She Drew

 本日の読了本もそうした本の一冊で、ガチガチのミステリマニアが作った『Murder, She Drew Vol.1 Beware of Fen』。なんと英国の本格ミステリ作家エドマンド・クリスピンのガイドブックである。
 もうクリスピンの単独ガイドブックという時点でけっこうなインパクト。とりあえずクラシックミステリのファンなら買わないわけにはいかないだろうが、この本もTwitterで知ったわけで、いやはやありがたい時代である。

 肝心の中身だが、構成としてはクリスピンの残した全ミステリ作品を、本文の記述をもとに起こした地図や見取り図、著者三氏による鼎談というスタイルで発表順に解説するというもの。
 気が利いているのは、鼎談部分をネタバレなしとネタバレありの大きく二部構成にしていること。ミステリならではの心遣いであり、また、ほかには森咲郭公鳥氏による本誌メイキングネタの漫画も楽しい。
 鼎談については、固い評論というわけではなく、作品ごとにその注目ポイントを取り上げていくという感じか。肩肘張らずに楽しめる内容となっているが、日本でのクリスピン作品のイメージがいまひとつ正確ではないという指摘、日本では本国での発表順とはまったく異なる順番で紹介されたことが後々の評価を曖昧にしてしまったなどという考察もあってなかなか興味深い。

 ちなみに管理人はクリスピンの翻訳された作品は一応すべて読んでいるのだが、それほど相性がいいわけではない。ただ、本作を読んで、あらためて本国での発表順に読みたい気持ちは大きくなった。とりあえず本書でイチ押しの『お楽しみの埋葬』は再読してみたい。
プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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