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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

kazuou『夢と眠りの物語ブックガイド』

 『夢と眠りの物語ブックガイド』を読む。題名どおり夢や眠りをテーマとした物語を紹介したブックガイドである。
 著者は『奇妙な世界の片隅で』という幻想小説系の読書ブログを運営しているkazuou氏。著名なブログだからご存知の方も多いと思うが、当サイトも絶賛相互リンク中である。

 夢と眠りの物語ブックガイド

 以前、『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』の記事をアップしたときにも少し触れたのだけれど、そのkazuou氏は「怪奇幻想読書倶楽部」というオフ会も主催しており(今はコロナで休止中のようだが)、実は管理人もスタート早々の頃に何度かおじゃましたことがある。そこで驚いたのがkazuou氏の準備である。ご自身が主催者だから、資料もある程度は用意しなければという使命感やサービス精神もあるのだろうが、毎回毎回きっちりしたレジュメを作ってくるのには感心した。
 たとえば今回のテーマは●●だとすると、その●●関連書リストを数ページにわたって作ってくる。そのときに思ったのは、サービス精神もさることながら、こういうリストを作ったりするのが根っから好きなんだろうなぁということ。
 まあ、読書好きは結構こういう人が多いような気がする。とりわけミステリやSF、幻想小説系の方々には。
 実は管理人自身も統計を取ったり、作家の著書リストを作ったりするのが好きで、データベースソフトでまとめた資料をiPhoneに入れて持ち歩き、古書を買うときなどにチェックしたりする。海外ミステリを中心にした著書データは8万件ほど入力済みで、たいがいの海外ミステリ作家の著作リストは、いつでもその場で見られるようになっているのがちょっと自慢だ(笑)。

 それはともかく、そういうタイプの人が作ったブックガイドだから、もちろん期待を裏切らない。夢テーマに興味があるというだけでなく幻想小説好きの読書家は、とりあえず買っておいて損はない。奇をてらわない非常にシンプルな作りだが、小説のみならずマンガや映像などもフォローしているし、すべての作品にコメントがついている。パラパラと好きなところを開いて読むだけでも大変楽しい。
 しいていえば小説、マンガ、映像の区別なく掲載されているので、せめて目次でジャンルがわかるとよかったかも。
 ともあれkazuou氏の人柄も感じられるような一冊。今後も続々と企画を練っているようなので、がんばっていただきたいものである。

kazuou『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』

 ブックガイドの類が好きなことは何度か過去の記事でも書いているのだが、まあミステリファンで良かったのは、そういうブックガイドがけっこう多いことである。親戚筋のSF小説や幻想小説、怪奇小説でもこうはいかない。
 だが、その怪奇小説や幻想小説のガイドブックで注目すべき一冊が出た。先日紹介した『Murder, She Drew Vol.1 Beware of Fen』同様、こちらも同人系で、怪奇幻想小説の書評ブログ「奇妙な世界の片隅で」を運営しているkazuou氏による『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』である。

 海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド

 kazuou氏曰く、日本における海外怪奇幻想小説というジャンルは、日本ではクラシックから現代ホラーに至るまで一応はひと通りの作品を読むことができるのに、他に比べて初心者が入りにくい分野であるという。
 これは管理人の想像に過ぎないが、やはりそこにはオールタイムベスト100とかを紹介するガイドブックが非常に少ないという事実がまずあり、それゆえに必読書や入門書というべきものがあまり知られていない現実があるのだろう。要するに一般の人がたまにはそういったものを読もうかというとき、水先案内人が極めて乏しい状態にあるのではないか。

 とまあ、そんな状況を踏まえたうえで、kazuou氏が海外怪奇幻想小説の初心者にオススメするのがアンソロジーというわけだ。そもそも怪奇幻想小説は、長編より短編の方がより強くそのエッセンスを感じられるとも氏は書いており、まずはアンソロジーで気に入った作家や傾向を見つけ、そこから個々の作品に進んでいただければ、ということらしい。
 ちょっと面白いのは、海外怪奇幻想小説というジャンルにはガイドブックが少ない割に、意外なほどアンソロジーは多く出版されていること。そういう意味でkazuou氏の試みは非常にいいところを突いているように思う。

 内容についてはもちろん満足。新旧とりまぜた幅広いアンソロジーを扱い、しかもちゃんとそれぞれの本の特徴を解説しており、まさにガイドブックの名に恥じない。もとより氏のブログは作品単体の書評だけではなく、アンソロジーの紹介や同傾向・同テーマの作品をまとめて紹介するという、それこそ本書の元になっているような記事も多く、本書が気に入った人はぜひ氏のブログも参考にするとよいだろう。
 なお、あえて注文をつけさせてもらえるなら、もし第二弾、あるいは改訂版などを作る際は、ぜひ作品名と著者名の索引をつけてもらえると使い勝手が良くなって嬉しい。いや、無理言ってすいません。

 余談だが、実は管理人、kazuou氏の主催するオフ会に何度か参加したことがある。氏はそういう場でも必ず細かなレジュメを作ってこられたのが印象的で、怪奇幻想小説にかける熱意には頭が下がるばかりである。
 開催曜日の都合で最近は欠席ばかりなのだが、ううむ、また顔を出したいものだ。

プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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