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 ジーン・ウルフの『書架の探偵』を読む。普段それほどSFは読まないけれども、これはジーン・ウルフが書いたSFミステリ、しかも探偵役の設定が非常に面白そうなので気になっていた作品である。

 まずはストーリーから。
 時は二十二世紀。世界の総人口は十億まで減少し、科学文明は進んでいたが資源は尽きかけ、社会問題も蔓延していた。世界全体を厭世観が包む、いわゆるディストピアの世界である。
 そんな世界で、図書館には「蔵者」と呼ばれる存在があった。一見、普通の人間に見える彼らは、作家の脳をスキャンされたリクローン(複生体)であり、図書館の書架で暮らし、利用者の求めに応じて知識を授けるのである。しかし、彼らはあくまで人間ではなく、リクローン(複生体)である。古くなったり、利用されない「蔵者」は処分されてしまう運命だった。
 ある日、推理作家E・A・スミスのリクローンであるE・A・スミスは、コレットと名乗る女性の訪問を受ける。父と兄を立て続けに亡くした彼女は、兄から死の直前にスミスの著書『火星の殺人』を手渡されたという。兄の死には、この本が関係しているのか? コレットはその謎を解くために著者であるスミスを借り出し、父たちが住んでいた家を訪れるが、何者かに襲われてしまう……。

 書架の探偵

 上でも書いたようにそれほどSFは強いわけでもなく、ジーン・ウルフの作品も初めて読むのでSF的な観点からはあまり大したことも書けないのだけれど、よくいえば意外にオーソドックスで読みやすく、悪くいえば少々古さを感じさせる内容で、あまり驚くような話ではなかった。
 図書館や「蔵者」という設定、それにまつわるエピソードなどは面白い。例えば、彼らはあくまで本の代わりとして造られたクローンなので、唯一の存在ではない。つまり同じ作家のリクローンは他の図書館にもいるということ。この設定を利用してスミスが生前の妻だった詩人のアラベラと各地で顔をあわせるところなど、物語のアクセントにもなっている。
 ただ、そのほかの点では、リクローンに関しては専ら人種差別問題を反映している程度で、これをあまり打ち出されても少々物足りないのも事実。彼らはあくまで「もの」であるため、いろいろな迫害を受けたり、自分という存在について苦悩したりもするが、さすがに今更な印象は否めない。それがストーリーの根本的なところに絡まないもどかしさもある。

 素材はいいけれど、調理の仕方が古いのか。これを書いたときの作者の年齢が八十歳を超えていたことや、ミステリに寄せて書いたことも影響しているように思う。
 ミステリに寄せて、と書いたが、基本的に本作のテイストはかなりハードボイルドに近い。捜査の一本道的な進め方、一人称という語り、主人公スミスの一貫した行動原理など、その空気はなかなか私立探偵的である。ときには脅されたり殴られたりしても減らず口をたたくところなど(口調こそ礼儀正しいけれど)、いかにもなやりとりに思わずニヤリとさせられる。

 そういうわけで雰囲気は悪くないと思うのだが、結局これらによって明らかになる事実も含め、SFとしてはそこまで突き抜けたものではないのが最大の弱みだろう。まあ、個人的にはそこそこ楽しめたけれども、SFファンやウルフファンには物足りなく感じられるだろうなぁ。


テーマ:SF小説 - ジャンル:本・雑誌



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