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 都筑道夫の『吸血鬼飼育法 完全版』を読む。渋谷の宮益坂に事務所を構え、探偵事務所というか何でも屋を営む片岡直次郎を主人公にしたシリーズを復刻した作品集。旧版の短篇集『吸血鬼飼育法』をベースに、中篇の「俺は切り札」、さらには原型となる短編を収録しており、さすが日下印の構成は絶妙である。

 吸血鬼飼育法

『吸血鬼飼育法』
 「第一問 警官隊の包囲から強盗殺人犯を脱出させる方法」
 「第二問 吸血鬼を飼育して妻にする方法」
 「第三問 殺人教の人質にされてエレベーターに閉じこめられた少女を救出する方法」
 「第四問 性犯罪願望を持つ中年男性を矯正する方法」
「俺は切り札」
「危機の季節」
「檻のなかの三人」

 収録作は以上。基本的には近藤&土方シリーズのように、お笑いを前面に打ち出した軽ハードボイルド路線。アクションとサスペンス、お色気もふんだんに盛り込み、まさに大人のためのエンターテインメントという感じである。
 ただ、近藤&土方シリーズがかなりお笑いに舵を取っているのに対し、こちらは事件そのものの妙を打ち出している。特に『吸血鬼飼育法』の四作品にそれが顕著で、タイトルにあるような奇抜な設定に対し、どのような落としどころをつけるかがミソ。しかも最終的にはもうひと捻り入れて、ただでは終わらせないのがよい。
 「第四問 性犯罪願望を持つ中年男性を矯正する方法」などは、いかにもパーカー・パインのパターンだと想像させておいて、途中から思いがけない展開になだれ込んでいく。かえって物語の構成美を壊していくような、やんちゃな感じがたまらなくいい。
 その点、中篇「俺は切り札」は少し後の作品だけあって、まとまりはあるのだが、かえって面白さが薄まっているような気がする。個人的には『吸血鬼飼育法』の四作のテイストが圧倒的に好みだ。
 「危機の季節」と「檻のなかの三人」はその四作の原型となった作品。ネタは共通だが、設定や人物などはかなり違っており、作者がどういうふうに作品を昇華させていくのか、その片鱗が垣間見えて興味深い。

 ということで実に満足できる一冊。いわゆる謎解きミステリとはまったく種類が異なるが、これもまたミステリの愉しみの一つである。片岡直次郎シリーズの完全版とか、そういうマニア的なアプローチも気にしなくていいから、とりあえず読んでおいて損はない。とはいえ、このスタイルが今の読者にどれだけ響くのか、それはわからないけれど(笑)。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 笑いの価値観というやつは本当に難しくて、たとえばM1グランプリなどの感想をTwitterなどで見ていると、人によって本当にツボがバラバラである。年齢や性別、出身地、育ってきた環境など、さまざまな要素が入り混じっての結果だろうが、日本国内でもこれだから、海外の映画や小説でのギャグが理解できないケースはかなり多い。いや、理解はできているだろう。ただ、文化が異なるので笑いのツボも異なるのである。
 かくいう管理人も日本の漫才や英国のブラックユーモアなんかは割と好きだが、アメリカ流のスラップスティック・コメディはそれほど得意ではない。

 だから都筑道夫がスラップスティック・コメディにチャレンジした『紙の罠』は長らく読んでいなかったのだが、これがちくま文庫から出たときに、近藤&土方シリーズをまとめたものになるというので、とうとう読むことにしたわけである。
 結果、思ったよりは全然楽しく読むことができ、さすが都筑道夫という感じでひと安心だったが、本日の読了本はその『紙の罠』に続くシリーズの第二弾『悪意銀行』。この二冊で一応、近藤&土方シリーズがすべて読めるという形になっている。

 悪意銀行

 こんな話。犯罪の芸術性を高めようと〈悪意銀行〉なるものを設立した土方利夫。その土方に、愛知県の地方都市の市長を暗殺してほしいという依頼が舞い込んだ。それを聞きつけた近藤庸三、土方ばかりに美味い汁を吸わせるつもりはないとばかりに、さっそく現地へ乗り込んでゆくが……。

 『紙の罠』は笑いを前面に押し出していたとはいえ、ミステリや犯罪小説としての結構はキープしていたのに対し、本作は作者自らあとがきで述べているとおり、目的は読者を笑わせることにあるという。しかもアメリカ流スラップスティック・コメディに日本伝統の笑い〈落語〉のテイストをミックスした〈ラクゴティック・スリラー〉だというから、なんだか、この著者の言葉自体がすでにギャグのようだ。
 ただ、実際に読んでみるともストーリーの面白さ、ギャグについても『紙の罠』よりは本作の方が満足度は高かった。『紙の罠』がミステリとしてもそれなりに盛り込んでいたせいか、登場人物やストーリーがゴチャゴチャした印象を受けたのに対し、本作は笑いが中心ということもあって全体がスッキリとしており、安心して笑いの方に流されるのがよい。近藤と土方の関係性も前作より安定しており、よりツーカーな感じで、これもまたよし。

 なお、併録している中編の「ギャング予備校」も悪くない作品で、近藤&土方シリーズ作品が揃うという意味でも『紙の罠』と合わせてファンは必携であろう。ただし、笑いのツボが合わない人はその限りにあらずということで。



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 都筑道夫の『紙の罠』を読む。初期にはいろいろと実験的なミステリを書いている都筑道夫だが、本格ミステリに限らず、ミステリのさまざまなジャンルにおいてチャレンジと研究を続けた作家である。本作は当時の日本ではまだ少なかった(今でも少ないけれど)ナンセンス・アクションに挑戦した一作。

 こんな話。紙幣印刷用紙が輸送中に強奪されるという事件が起こった。強奪犯の目的はその紙幣を使った偽札造りに間違いない。そう推理した近藤庸三は、贋造に必要な“製版の名手”の身柄を先に押さえてしまい、強奪犯たちに引き渡してひと稼ぎしようと思い立つ。
 しかし、そう考えたのは近藤だけではなかった。土方や沖田といった商売敵、そして強奪犯も動き出して……。

 紙の罠

 著者自身はナンセンス・アクションと表現しているが、意識しているのはアメリカ映画にあるようなスラップスティック・コメディ、すなわち体を張ったドタバタギャグ満載のコメディだ。それをミステリでやったのが本作である。
 本筋は一応、“製版の名手”を巡るギャング同士の抗争だが、ストーリーがどう転ぶかはそこまで気にする必要はなく、ほぼ全編にわたって盛り込まれたギャグを楽しめばよい。だから著者と笑いの質が合うか合わないかでずいぶん評価は変わるだろうなとは思う。

 とはいえ当時のスラップスティック・コメディをここまで日本風に落とし込んだ例はあまり見たことがなく、それだけでも一読の価値はあるだろう。ギャグ満載でありながらもどこかおしゃれなイメージを感じさせるこのテクニックは鮮やかだ。
 また、スラップスティック・コメディ云々とはいってもベースはミステリ。著者はその辺も抜かりなく、それこそ本格ミステリばりの意外な真相と推理シーンをラストにもってくるのはさすがである。

 なお、本作は近藤&土方シリーズとして二長編があり、先日、二作目の『悪意銀行』もちくま文庫で復刊したばかりである。こちらの感想もそのうちに。


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 都筑道夫の『三重露出』を読む。昭和の作家を消化するなかで、やはり都筑道夫も忘れてはならない作家だろう。高校ぐらいのころに次々と文庫化されていたこともあり、初期の代表作はけっこ読んでいるはずで、本作も三十五年ぶりぐらいの再読である(苦笑)。

 こんな話。翻訳者の滝口が目下とりかかっているのはアメリカの作家、S・B・クランストンが書いたスパイ小説『三重露出』。なんと日本を舞台にし、アメリカ人の私立探偵もどきが女忍者やギャングと渡り合う破天荒な内容である。ところが作中で意外な人物が登場し、滝口を驚かせる。
 意外な人物の名は沢之内より子。かつて滝口の知人らが集まっていたパーティーで変死を遂げた女性である。この小説は事件となにか関わりがあるのだろうか?

三重露出

 翻訳者・滝口が過去の事件を追う現実世界のパートと、作中作『三重露出』のパート、この二つが交互に語られてゆく異色の構成。初期の都筑作品らしい実にトリッキーな作品である。
 最近では『カササギ殺人事件』というビッグネームがあるし、新本格系の作家にはちらほらあるようだが、作中作というネタを用いたミステリは決して多いわけではない。それはそうだろう。長編一作書くだけでも大変なのに、二作分を盛り込んだうえ、両者に重要な関連性を持たせなければ作中作というネタを用いた意味がない。そこには単なる作中作というアイディアだけではなく、おのずとメタ・ミステリというものに対するアプローチも生まれるわけで、都筑道夫はその点も抜かりはない。さまざまなミステリのネタやパロディ要素を盛り込み、加えて当時の翻訳やミステリに関する裏話までぶちこんでくる。
 そういう意味において、本作は既成のミステリに対するチャレンジともいえるわけで、1960年代の初めにこういう試みをした都筑道夫はさすがとしか言いようがない。

 ただし、その試みが成功しているかというと、ここはなかなか難しいところだ。特に弱いのは作中作のパートと現実世界のパートの関連が薄いところである。両者を結ぶ糸は“沢之内より子”という人物しかないのだが、それが終盤までそのまま流れてしまうのはいただけないし、自分が何か読み落としているのかと思ったぐらいあっけない。
 もうひとつ気になるのは両パートのバランスの悪さか。ぶっちゃけいうと作中作のパートがあまりに弾けすぎていて、現実世界のパートが霞んでしまっている。
 一応はスパイ小説だが、その方向性は007と山風の忍法帖をあわせたうえで、よりユーモアとお色気をパワーアップさせたような内容。これが実にバカバカしいのだがたまらなく面白い(笑)。
 その面白さが現実パートで急にぶった切られてしまい、このつながりの悪さ、バランスの悪さが消化不良を起こしてしまう。

 というわけで、個人的には先に書いたようにチャレンジ精神をこそ評価したい作品だが、今、人にオススメできるかどうかとなると微妙なのも確か。そんな作品である。


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 ちんたら読んでいた都筑道夫のミステリー評論集『死体を無事に消すまで』を読了。
いやー、さすがミステリー界きっての論客と申しますか、本当にためになる一冊である。切れ味の鋭さはもちろんだが、平易な文章でこれを表現できるところがすごい。

 内容としては大きく三つのテーマに分けられている。ミステリー総論とでもいうべき第一部、書評メインの第二部、昭和初期の作家を扱った第三部である。
 個人的な興味によるものだが、最も参考になったのは第三部「久生十蘭」や「林不忘」での捕物帖に関する記述である。こっちが知らないだけで実は常識なのかもしれないが、有名な捕物帖を挙げてその位置づけや意義、流れなどが解説されており、かなり胸のつかえがおりる。これだけでも本書は忘れられない一冊になりそうだ。


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