藤原宰太郎、藤原遊子『改訂新版 真夜中のミステリー読本』を読む。
藤原宰太郎といえばミステリの著作もあるが、それ以上に有名なのは、やはりミステリのガイドブックであろう。ミステリのガイドブックは数々あれど、藤原宰太郎の手になる著作はとりわけライトで親しみやすく、何よりネタバレのオンパレードというのが最大の特徴である(苦笑)。
初心者向けの本なのに平気でトリックや犯人のネタバレをやるものだから、その被害は甚大。管理人も氏の『世界の名探偵50人』とかで古典の名作を軒並みやられた記憶があるが、昭和のミステリファンであれば一度は被害者になった苦い記憶があるのではないか。

本書はそんな藤原宰太郎が1990年にワニ文庫から出した『真夜中のミステリー読本』を元版とし、娘さんの藤原遊子が各種改稿して新版とした出された一冊。
ミステリガイドブックとはいえ、そこまで系統立てて解説したものではなく、初心者がミステリにより興味を持てるよう、密室とか暗号とか合作とか、とにかくさまざまなテーマで書かれた雑学エッセイ集といったところ。ひとつひとつのエッセイもそこまで詳しいものではなく、ちょっとしたミステリファンならすでに知っていることばかりなのだが、取り上げている作家や作品は相当に幅広く、著者の研究熱心さには頭が下がる。
まあ、その研究成果をネタバレとして容赦なく載せてしまうのは本書でも相変わらずなんだけれど(笑)。
ただ、本書は改訂版ということで、元版に相当手を入れているらしい。注釈をつけることでネタバレもかなり減らしているようだし、新しい作品も取り上げられている。昨今の社会通念上まずい内容とか現役作家への気配りもされているようで、そういう危うい部分はごっそりカットされているようだ。
ううむ、それはそれで元版の破壊力がだいぶ弱められているような気もするし、残念な感じもするのだが(笑)。
まあ、正直、初心者向けガイドブックといいながら、初心者にはお勧めできない禁断のガイドブックである。むしろ藤原宰太郎のガイドブックのそういう特徴を熟知したミステリマニアが、笑って当時を懐かしむような、そんな一冊ではないかと思われる。
なお、少しだけ注文をつけさせてもらうと、『真夜中のミステリー読本』というタイトルの割には、カバーイラストが“イングリッシュガーデンの柔らかな午後の日差し”といった雰囲気で、妙にアンバランスなのがなんとも。