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 同人系というか私家版というか、とにかく最近はクラシックミステリに出版社以外が大いに参入して、えらい勢いである。管理人もこのジャンルは大好物なので、出るものはとりあえず片っ端から買っているのだが、この二週間だけでも、デュ・ボアゴベ『乗合馬車の犯罪』、コナン・ドイル『二重唱 時折の合唱付き(上)』、城崎龍子『ハルピンお龍行状記』、香住春吾『地獄横丁』、ビーストン『戦後未収録作品集』、伊東鋭太郎『弓削検事の実験』、オースティン・フリーマン『盗まれた金塊』が届いた。時代は令和だというのにとんでもないことである。

 本日の読了本は、そんなマニアックなミステリ同人誌の老舗「ROM叢書」から、ノエル・ヴァンドリの『逃げ出した死体』を読む。
 ノエル・ヴァンドリは1930年代を中心に活躍したフランスのミステリ作家である。当時のフランスミステリとしては珍しいことにガチガチの本格志向であり(いや、今でも珍しいけれど)、密室や不可能犯罪ものが多いという。聞きなれない作家ではあるが、ミステリ批評家ロラン・ラクルブによる密室ミステリのガイドブックに取り上げられるなど、邦訳が期待されていた作家でもある。

 まずはストーリー。
 深夜のこと。カドヴァンと名乗る男が「人を銃殺した」と警察に出頭した。警官はカドヴァンが殺したというグレシーの家に向かうが、血痕は残っていたものの、不思議なことにグレシーの死体は消え失せていた……。
 捜査を担当したマルティニェのもとへ、さらなる奇妙な事件が舞い込んだ。サポローという男が自殺をしたらしいが、またしても死体が消え失せているというのだ。しかも、グレシーを殺したので自殺するという書き置きが残されていた。マルティニェはローラン予審判事とともに推理を巡らすが……。

 逃げ出した死体

 いやあ、驚いた。初めてノエル・ヴァンドリの作品を読んだわけだが、ここまで本格作家だとは思わなかった。しかもけっこうな高品質で。本当にこんな作家がフランスにいて、今まで紹介されなかったのが実に不思議である。これは本国フランスでも似たような状況らしくて、解説によると今でも本国のマニアがこぞって探す作家らしい。もちろん作品がつまらなかったら、ただのマニアの酔狂で終わるのだが、いま読んでも十分に面白いのである。

 まずは殺人と自殺、ふたつの事件の死体が消え失せ、さらには殺人事件の方には二人の人間が犯行を認めているという導入の妙。まったく意味がわからない状況だというのに、関係者に聞き込みを進めるとどいつもこいつも嘘や隠し事をしている始末。どうやら事件の裏には痴情や遺産相続など、さまざまな事情があるようなのだが、それらがもつれにもつれ、おまけに“狐”と名乗る謎の人物から密告が相次ぎ、マルティニェ警視とローラン予審判事はこの難事件をあーだこーだと推理合戦を闘わせる。
 真相を突き止めるという職業的な使命とは別に、ときには相手を負かしたいという人間的な部分も見せながら繰り広げる二人のやりとりが実に楽しい。裏の事情が複雑すぎて正直、途中で何度もページを戻って読み直すこともけっこうあったりとか、嘘だらけの関係者に対して警察のツッコミが甘すぎるとか、気になるところも多々あるのだけれど、まあ、本作の楽しさを著しく損なうものではないのでよしとしよう(苦笑)。

 実は一番残念だったのはラスト。シリーズ探偵のアルー予審判事はローラン予審判事と入れ替わる形で登場するが、出番が短くて本作だけではまだ魅力を感じるところまではいかなかった。
 また、アルーの指摘で一気に事件は解決に向かうのだが、その指摘は至極もっともなもので、これに気づかない捜査陣がだらしない。
 意外性はまずまずあるので不満というところまではいかないが、やや惜しい感じもあり、こうなったら、ぜひ他の作品も読んでみたいものだ。その際はぜひ密室もので。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



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