ヘレン・ウェルズの『エアポート危機一髪 ヴィッキー・バーの事件簿』を読む。
論創海外ミステリの一冊だが、これはまた懐かしい名前である。ヘレン・ウェルズは主に1940年代から60年代にかけて、主にジュヴナイル、特に少女向けミステリで人気を集めた女流作家だ。日本でも看護婦探偵のチェリー・エイムスやスチュワーデス探偵のヴィッキー・バーのシリーズ作品がいくつか紹介され、管理人も小学生ぐらいの頃に読んだ記憶がある。
こんな話。ヴィッキー・バーはフェデラル航空に勤めるスチュワーデスだ。しかし、スチュワーデスとして勤務するだけではなく、自分でも飛行機を操縦してみたい気持ちが強くなっていた。そんなとき、同僚のパイロットから自分の知り合いのパイロットがヴィッキーの故郷で飛行場を経営しているという話を聞く。
ちょうど休みを利用して里帰りするところだったヴィッキーは、その飛行場経営者兼パイロットのビル・エイヴリーを訪ね、パイロットの教習を受けることになるが、それをきっかけに地元で起こりつつある陰謀に巻き込まれることになる……。

日本で書かれたジュヴナイル・ミステリと海外(主に英米)のジュヴナイル・ミステリは意外に印象が異なる。あくまで個人的な印象なのだが、国産ものは読者の対象年齢をしっかり定め、文体や内容、登場人物の設定にいたるまで、バランスよくまとめている。一方、海外で書かれたジュヴナイルは主人公こそ子供にしているが、比較的、内容はそのまま大人向けでも通じるようなパターンが多い。
これもあくまで想像に過ぎないが、日本では昔から小・中・高どころか、学年ごとに学習誌があるなど、非常に細分化された出版状況があって、それに合わせてジュヴナイルも書かれてきたことが大きな理由ではないか。また、英米の文化として、子供をなるべく子供扱いしないという考え方の違いも影響しているように思う。どちらがいいという話ではなくて、そういう環境や文化の違いが、日本と海外のジュヴナイルの違いとなって表われているように思うのである。
本作もその例に漏れない。主人公のヴィッキーはスチュワーデスという仕事に就ているように、ジュヴナイルとしては珍しく大人の女性を主人公にしている。内容も田舎にある二つの飛行場のトラブルが背景にあり、子供向けにしてはなかなか現代的というか、本当に子供がこんな事件に興味を持ってくれるのかというほど渋いネタを扱っている。しかもプロットは予想以上に複雑だ。
もちろん残酷な犯罪は登場せず(未遂はあるけれど、殺人までには至らない)、飛行機の操縦シーンを詳細に描写するなど、ジュヴナイルらしい工夫もたくさんあるけれど、基本的には普通に大人向けミステリとして楽しむことができることに感心する。ただ、本書自体は子供向けに発売したものではなく、論創海外ミステリとして大人向けに翻訳されているので、それが影響している可能性も大である。
そういうわけでジュヴナイルとはいえ大人も楽しめるミステリではあるのだが、ミステリ本来の謎解き的な楽しみはあまりなく、冒険小説もしくはスリラーという面が強いので念のため。