湘南探偵倶楽部の復刻本をもういっちょ。O・A・クラインの短編『雪の悪戯』の復刻本である。かつて『新青年』十三巻十号に掲載されたものだが、その際の惹句が「どんでん返し二度三度 さて犯人は?」というもの(下の画像でも見えるかも)で、なかなか強気である。まあ、レベル的なところはともかくとしても一応本格作品らしいので、その辺りはちょっとだけ期待して読んでみる。

雪の山中で一人の漁師が猟銃で撃たれ、死体となって発見された。捜査にあたったピイター検事は、雪に残った足跡を追って、被害者と犯人の行動を推理していく。すると山小屋で暮らすロリマーという若者を発見。状況から彼を容疑者と見て、再び犯行現場に戻るが、そこへロリマーが発砲したところを目撃したという男も現れる。事件は解決したかに見えたが…‥。
アンフェアなところもあるが、雪の足跡や猟銃といった証拠をもとに展開される推理劇は悪くない。惹句どおり二転三転する真相やラストのオチも含めて、短いながらも楽しい読み物である。
ところでO・A・クラインという作家にまったく心当たりがなかったので少し調べてみると、あっさりWikiで判明。フルネームをオーティス・アデルバート・クラインといい、パルプマガジン全盛期に『ウィアード・テイルズ』を中心に活躍したアメリカのSF作家ということだ。日本では『火星の無法者』と『火星の黄金仮面』が訳出されているらしく、うむ、こちらがSFに疎かっただけで、SFマニアの間では普通に知られている感じである。
ちなみに『火星の無法者』などというタイトルはエドガー・ライス・バローズの「火星シリーズ」を彷彿とさせるのだが、両者は火星シリーズどころか金星シリーズでもバッティングしており、けっこうな確執があったと見られている。
その一方でロバート・E・ハワードとは友人関係にあり、後年は執筆を辞めて彼の著作権エージェントとして専念したというから、なかなか面白そうな人物である。ミステリは余技のようだが、他にはどんな作品を書いていたのだろうか。