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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

O・A・クライン『湖怪』(湘南探偵倶楽部)

 O・A・クラインの『湖怪』を読む。湘南探偵倶楽部さんが例によって短編一話を小冊子として復刻したもの。クラインは本来SF作家だが、ミステリもいくつか書いていたようで、以前に湘南探偵倶楽部から復刻された『雪の悪戯』は雰囲気もよく、どんでん返しの効いた佳作だった。
 そんなわけで本作もミステリかと思っていたら、あに図らんやこれが本職のSF作品。『新青年』1931年6月号に掲載されたものだが、『新青年』がこんな作品も載せていたことにもちょっと驚いた。

 湖怪

 行方不明になったオレラナ博士を探すため、中米ニカラグアの奥地へ向かったマブレイ教授一行。その途中に立ち寄った火口湖で、水中から出現した巨大な何本もの触手に襲撃される。かろうじて難を逃れた一行に、今度は原住民が立ち塞がる。
 ネタバレというほどでもないのでさらに続きを書いてしまうと、予想どおりオレラナ博士は原住民たちに囚われていたのだが、その理由が実は……という一席。

 ううむ、これはきつい(苦笑)。
 それほど期待していたわけではないけれど、〈怪物の襲撃→原住民の脅迫→手打ち→博士の救出→怪物の正体〉という内容がほんの数ページで語られるので、ほとんど粗筋を読んでいる感じでなんとも残念な出来。怪物は放りっぱなしだし、原住民の行動原理もいまひとつ理解しにくい。
 まあ、想像するに、本作は相当な抄訳なのだろう。完訳してもそこまで面白さがアップするとは思えないが、一応、原作がどうだったかは気になるところだ。

O・A・クライン『雪の悪戯』(湘南探偵倶楽部)

 湘南探偵倶楽部の復刻本をもういっちょ。O・A・クラインの短編『雪の悪戯』の復刻本である。かつて『新青年』十三巻十号に掲載されたものだが、その際の惹句が「どんでん返し二度三度 さて犯人は?」というもの(下の画像でも見えるかも)で、なかなか強気である。まあ、レベル的なところはともかくとしても一応本格作品らしいので、その辺りはちょっとだけ期待して読んでみる。

 雪の悪戯

 雪の山中で一人の漁師が猟銃で撃たれ、死体となって発見された。捜査にあたったピイター検事は、雪に残った足跡を追って、被害者と犯人の行動を推理していく。すると山小屋で暮らすロリマーという若者を発見。状況から彼を容疑者と見て、再び犯行現場に戻るが、そこへロリマーが発砲したところを目撃したという男も現れる。事件は解決したかに見えたが…‥。

 アンフェアなところもあるが、雪の足跡や猟銃といった証拠をもとに展開される推理劇は悪くない。惹句どおり二転三転する真相やラストのオチも含めて、短いながらも楽しい読み物である。

 ところでO・A・クラインという作家にまったく心当たりがなかったので少し調べてみると、あっさりWikiで判明。フルネームをオーティス・アデルバート・クラインといい、パルプマガジン全盛期に『ウィアード・テイルズ』を中心に活躍したアメリカのSF作家ということだ。日本では『火星の無法者』と『火星の黄金仮面』が訳出されているらしく、うむ、こちらがSFに疎かっただけで、SFマニアの間では普通に知られている感じである。
 ちなみに『火星の無法者』などというタイトルはエドガー・ライス・バローズの「火星シリーズ」を彷彿とさせるのだが、両者は火星シリーズどころか金星シリーズでもバッティングしており、けっこうな確執があったと見られている。
 その一方でロバート・E・ハワードとは友人関係にあり、後年は執筆を辞めて彼の著作権エージェントとして専念したというから、なかなか面白そうな人物である。ミステリは余技のようだが、他にはどんな作品を書いていたのだろうか。
プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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