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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

ロバート・ロプレスティ『休日はコーヒーショップで謎解きを』(創元推理文庫)

 先日読んだ『日曜の午後はミステリ作家とお茶を』が緩い感じで楽しめたので、同じロプレスティの短編集をもう一冊。『日曜の午後は〜』と違ってこちらはノンシリーズの短編を集めたもので、日本で編纂されたオリジナルの短編集である。
 まずは収録作。

The Roseville Way「ローズヴィルのピザショップ」
Brutal 「残酷」
Train Tracks「列車の通り道」
The Accessory「共犯」
Crow's Lesson「クロウの教訓」
Shooting at Firemen「消防士を撃つ」
Two Men, One Gun「二人の男、一挺の銃」
The Center of the Universe「宇宙の中心(センター・オブ・ザ・ユニバース)」
The Red Envelope「赤い封筒」

 休日はコーヒーショップで謎解きを

 これはいいぞ。『日曜の午後は〜』も悪くなかったが、本書のほうが頭ひとつ抜けている、傑作短編集といっても申し分ないレベルだろう。
 上でも書いたように、本作は『日曜の午後は〜』と違ってシャンクス・シリーズではないのだが、内容もコージーからは離れ、本格ありサスペンスあり、ブラックユーモアからクライムノベルまでと非常に多彩。しかもきちんとオチやツイストも利かせている。著者自身はジャック・リッチーを意識しているらしいが、作品によってはローレンス・ブロック風のものやレックス・スタウト風のものもあったりで、これもまた愉しい。
 著者は兼業作家の時代が長かったため多作ではない。それだけにひとつひとつ丁寧に作品を作っていった印象を受けるのだが、とはいえ、かの『EQMM』には七十六作連続で没になったとかの説明もあり、やはり傑作は簡単には生まれないのだと、当たり前のことも実感させてくれる。
 以下、各作品ごとに簡単なコメントなど。

冒頭の「ローズヴィルのピザショップ」は田舎町のピザ屋が舞台。味は都会仕込みでいいのだが、近くのチェーン店に押されて景気が悪い。しかし、あるとき店にやってきたイタリア系の客が常連になることで、店の景気だけではなく、他の常連客にまで好影響が……。しかし、皆は気になっていた。イタリア系の客って、実はマフィアアなんじゃない? 心温まるクライムコメディ。

 「残酷」は腕の立つ殺し屋が、なんでもない街の日常に振り回されていく様をユーモアたっぷりに描く。この「残酷」は筒井作品を連想させて楽しい。

 「列車の通り道」はアメリアの黒歴史ともいえる「孤児列車」をテーマにした一篇。天涯孤独の子供たちに待っていたのは悲しい運命だけではなかったはず、と信じたい著者の願いが込められている(と想いたい)。悲劇ではあるがラスお出救われる気持ちになる。

 「共犯」は個人的なツボにはまった作品。女性のもとへやってきた刑事は、女性がある犯罪者の恋人で、逃走を手引きしたのではないかと考えていた。確かに女性と犯罪者は知り合いではあったが、共犯ではないと否定する。いったん出直すことにした刑事は、彼女がほかの犯罪者とも顔見知りであることに気がつき……。
 ローレンス・ブロックの短編集にありそうで、好みだけでいえば本書で一番。

 ハードボイルド風の奇妙な味といっていいのが 「クロウの教訓」。倒叙的な味つけやストーリー展開など、いちいちやることが心憎くて楽しい一作。

 「消防士を撃つ」は人権問題が激しかった1960年代が舞台。著者自身の記憶や体験が反映されており、アメリカの作家は避けて通れないテーマといえるが、こういうのもサラッとミステリにして入れてくるから侮れない。

本書において、実はさまざまな変化球を持っていることを証明した著者がだ、 「二人の男、一挺の銃」も相当のクセ球だ。ある作家のもとに突然、強盗が現れ、作家を人質にして立てこもる。しかし、なぜか強盗は、警察がかけつける間、作家に物語を創作するよう命じるのだ。それは一体何のため……。

 「宇宙の中心(センター・オブ・ザ・ユニバース)」は内容もさることながら、スタイルが攻撃的で、やはり一作ごとにかける熱を感じて嬉しい。

 「赤い封筒」も素晴らしい。田舎からマンハッタンへ、伯父のコーヒーショップを相続するためにやってきたトマス。そこで自称詩人のデルガルドと知り合うが、彼の昼間の仕事は探偵だった。読み始めてすぐに、これはネロ・ウルフとアーチー・グッドウィンだよなぁと想ったが、解説を読んで見事的中。中編というスタイルも踏襲し、コーヒーショップを巻き込む事件を語る。デルガルドはもちろんだが、トマスのキャラクターに味があって、シリーズ化が楽しみな作品だ。

 ということで大満足の一冊ではあったが、あえてひとつだけ、いや、ふたつ注文をつけるとすれば、まず著者の作品ごとのあとがきは(内容が面白くても)個人的には興醒め。自分で種明かしはちょっと無粋な感じである。
 もうひとつは邦題。前作『日曜の午後は〜』のヒットにあやかったのだろうが、コージーっぽいタイトルがあまり本書の雰囲気に合わない。そもそも謎解き作品は一作しかないし、ちょっといただけない感じである。


ロバート・ロプレスティ『日曜の午後はミステリ作家とお茶を』(創元推理文庫)

 ロバート・ロプレスティの短編集『日曜の午後はミステリ作家とお茶を』を読む。評判がよかったので買ってはみたものの、実はコージーミステリ系があまり得意ではないので後回しにしていた一冊。だが、ここのところ世間でろくなニュースがなく気持ちも沈みがちなので、今ならこういう穏やかなものもいいかなということで読み始める。

 日曜の午後はミステリ作家とお茶を

Shanks at Lunch「シャンクス、昼食につきあう」
Shanks at the Bar「シャンクスはバーにいる」
Shanks Goes Hollywood「シャンクス、ハリウッドに行く」
Shanks Gets Mugged「シャンクス、強盗にあう」
Shanks on the Prowlシャンクス、物色してまわる」
Shanks Gets Killed「シャンクス、殺される」
Shanks on Misdirection「シャンクスの手口」
Shanks' Ghost Story「シャンクスの怪談」
Shanks' Mare「シャンクスの牝馬(ひんば)」
Shanks for the Memory「シャンクスの記憶」
Shanks Commences「シャンクス、スピーチをする」
Shanks' Ride「シャンクス、タクシーに乗る」
Shanks Holds the Line「シャンクスは電話を切らない」
Shanks Goes Rogue「シャンクス、悪党になる」

 レオポルド・ロングシャンクス、通称シャンクスは五十代のミステリ作家。同じく作家の奥様コーラと暮らし、日々の生活に困ることはないけれど、流行作家の道は高く険しい。そんなシャンクスの前にはなぜか事件や謎が多発する。シャンクスは愚痴をこぼしながらも、見事、名探偵よろしく事件を解決に導いていく——。
 しいていえば雰囲気としてはアシモフの「黒後家蜘蛛の会」に近いか。ただ、あそこまでパズルに特化しているわけではなく、ミステリとしてのキレ味、サプライズといった部分はそれほどではない。読みどころはやはりキャラクターのやりとりやユーモアの部分で、まあ、これは読む前から予想していたとおりのイメージだ。

 そんなわけで基本的に暇つぶし程度の一冊かと思っていたのだが、これが一作、二作と読み進めるうちに、だんだんと面白さが加速し、引き込まれていったから不思議なものだ。
 その原動力になっているのが、作家の心情や出版業界の内幕など、読書好きをくすぐるネタを絶えず入れこんでくるところだろう。これもただの楽屋落ちみたいなものだと困るのだが、基本的にはオブラートに包んだ笑いに昇華されており、ときにはブラック、ときには皮肉を効かせたりと、その匙加減がなかなかいい。しかも、ただの味つけに終わらせず、設定にうまく絡めていたり、ストーリー展開上でもいいアクセントになっていたりする。
 また、デビュー間もないペーペー作家の奥さんが、いつのまにか自分より売れていたりといった、登場人物たちの近況が変化していくのも愉しい部分で、これは思った以上に楽しめる一冊だった。

 流れで楽しめるところも大きいので、お好みをあげるのも野暮な感じはするが、あえて選ぶなら「シャンクス、強盗にあう」、「シャンクス、殺される」あたりか。前者は予想外の着地がお見事で、後者は全編、毒に満ちあふれていて笑える。


プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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