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 吾妻隼人こと山中峯太郎の『真澄大尉』を読む。吾妻隼人などと聞くと誰のことやらさっぱりわからないが、これは、あの山中峯太郎がデビュー時に使用したペンネームである。つまり本書『真澄大尉』は山中峯太郎のデビュー作というわけだ。

 真澄大尉

 山中峯太郎といえば、戦前から戦後にかけ、軍事探偵の本郷義昭シリーズなどをはじめとした少年小説や冒険小説で活躍した作家である。中でも有名なのは、戦後に発表されたホームズものの翻案『名探偵ホームズ全集』だろう。近年、作品社からその集大成的な本も出ているほどで、原作を自由にアレンジした山中峯太郎版ホームズは独特の味があって(要するに峯太郎自身の書いたキャラクター本郷義昭の世界をそのまま融合させたスタイルといえばいいか)、むしろそちらのホームズにハマっているファンもいるという。
 しかし、『名探偵ホームズ全集』こそ刊行当時から人気は高かったようだが、意外にもそれまでは大したヒットに恵まれず、作家としてはなかなか苦労していたらしい。そもそも作家として立つことがまず父親から大反対されたようで、デビューをめぐるエピソードは本書の解説でも紹介されていて興味深い。

 それはともかく『真澄大尉』である。上でも書いたように本書は山中峯太郎のデビュー作。タイトルどおり主人公は真澄大尉という軍人だが、一般的な軍人ではなく、“密偵”=今でいう“スパイ”として中国やロシアで暗躍した軍事探偵である。その活躍はまさにスパイと呼ぶに相応しく、あるときは中国人の理容師、またあるときはハンガリー人貴族に変装し、敵の枢軸に迫っていく。いってみれば本郷義昭シリーズのご先祖的な位置づけでもある。
 デビュー作ということもあって、全体の構成にはギクシャクした印象も受けるが、各場面の描写は活きいきとして惹きつけられた。凄いのは、これを書いた当時、峯太郎は弱冠二十一才、陸軍士官学校在学中だったというから恐れ入る。大阪毎日新聞で一九〇六年に連載されたのだが、それは日露戦争が終わった翌年のことで、本人はまだ学生だったから、先輩諸氏の体験、世情をできる限り取材したのだろうが、それにしても特に文章修行もしていないのに、ここまで描けるのは驚異的ではないか(まあ、編集者がかなり手を入れた可能性もあるらしい)。
 なお、本書には当時の挿絵が数多く収録されているのだが、これも作品世界の理解という点では非常にありがたく、嬉しいところである。

 山中峯太郎のオリジナル作品を読んだのはこれが初めてだったが(ホームズは子供の頃に体験済み)、デビュー作でこれなら、そのほかの作品もけっこう期待できそうだ。積ん読も何冊かあるので、今度は本郷ものを試してみたい。

※本書はまだ盛林堂さんに在庫があるようなので、興味がある方はこちらからどうぞ。
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テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



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