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 論創ミステリ叢書から『千代有三探偵小説選 II』を読む。まずは収録作。

「女のさそい」
「流れぬ河」
「白い夜」
「雪男雨女」
「スクリーン殺人事件」
「月にひそむ影」
「夢橋」
「夜の影」
「紙吹雪の曲線」
「女子高校二重盗難事件」
「似顔絵の女」
「アラセン王国の危機」
「幽霊は生きていた」
「語らぬ沼」
「殺人混成曲」
「デートの死」
「シャワー・ヌード」
「接吻横丁」
「ローマの乳房」
「小説・江戸川乱歩の館」
「悪い貞女」
「最後の章」
「死者は犯す」
「あられもない死」

 千代有三探偵小説選II

 『千代有三探偵小説選 I』の感想でも触れたとおり、著者の探偵小説観は「謎と論理の文学」であり、純粋な本格思考である。それを実証するかのように犯人当てやクイズ形式の作品も少なくない。ただ、これも同じ記事で書いたが、著者のバックボーンは純文学であり、むしろその特色の出た作品の方が出来は良いように思う。
 I 、II 通じて印象的だったのは意外にエロティシズムを扱う作品が多かったこと。そういう嗜好と探偵小説における志向がもう少し長い作品で成就すればよかったのになぁと思った次第である。

 まあ、そんな中でもいくつか気に入った作品はあり、本書では「雪男雨女」、「殺人混成曲」、「死者は犯す」あたりはアイデアもよく楽しめた。特に「雪男雨女」の真相は面白い。あまりに短いのがもったいなく、もう少ししっかりした形で、松本清張っぽく書いてもらえるとかなりの作品になった感じがする。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌


 久しぶりに論創ミステリ叢書を一冊消化。ものは『千代有三探偵小説選 I』。2019年6月に読んだ『金来成探偵小説選』以来だから、なんと十四ヶ月振りではないか。まあ理由ははっきりしていて、単純に本が大きくて通勤のお伴にしにくいからである。管理人の場合、自宅から会社まで片道八十分はかかるから、やはり荷物はできるだけ減らしたい。若い頃と違ってカバンの重さはけっこう堪えるしなぁ。
 ただ、最近は新型コロナの影響で電車は以前ほど混んでいないので、ちょっと気合いを入れて読み進める頃合いかもしれない。

 それはともかく『千代有三探偵小説選 I』である。
 著者は一般的な知名度こそ低いが、古い探偵小説好きの間ではかなり知られた存在である。なんといっても有名なのは、探偵作家クラブの新年会の余興で、二年連続して犯人当てゲームで優勝したことがあり、それをきっかけにデビューしたというエピソードだろう。
 本業は英文学者だが、探偵小説も純文学に劣らず好きだったようで、早稲田で教授を務めていた時代には、“ワセミス”ことワセダミステリクラブの初代会長にも就任している。千代有三として創作や翻訳をこなしたほか、本名・鈴木幸夫の名では評論もやるというマルチプレーヤーでもあり、創作だけにとどまらなかったのは、やはり文学博士という本業が大きく影響しているのかもしれない。
 ひとつだけ気になるのは、まだデビュー以前の頃から探偵作家クラブの新年会に出入りしていたという事実。探偵小説関連の執筆がなかったとはいえ、文学教授にして探偵小説好きということで参加を許されていたのは理解できるが、それにしても何らかのきっかけ、というか誰かの紹介はあったはず。その辺の人間関係が解説にも説明はなく、いまだにモヤモヤしている(笑)。

 千代有三探偵小説選I

「痴人の宴」
「ヴィナスの丘」
「遊園地の事件」
「肌の一夜」
「死は恋のごとく」
「ダイヤの指輪」
「エロスの悲歌」
「宝石殺人事件」
「美悪の果」
「死人の座」
「白骨塔」

 収録作は以上。といっても上に書いたのは創作のみで、このほか「二十世紀英米文学と探偵小説」をはじめとした相当量のエッセイや評論が採られており、続刊の『千代有三探偵小説選 II』と合わせれば、鈴木幸夫名義も含めて、著者の探偵小説の業績が俯瞰できるという按配。毎度のセリフにはなってしまうが、本当に出してくれるだけでも十分にありがたいことである。

 さて、出してくれるだけでも十分にありがたいのだけれど、一応、中身もチェックしていこう。
 本書に収められたエッセイ等にも書かれているのだが、千代有三自身は探偵小説と文学を完全に別物と捉えていたようだ。文字で表現するという行為は共通だけれど、目指すところや求めるものが本質的に異なり、探偵小説はその表現形式を文学(小説)から拝借したのだという考え。極端なところでは、推理するという知的要素がなければスリラーの類であっても、それは推理小説ではないという。
 ことほどさように千代有三は本格探偵小説における「論理的な解明」というところに惹かれていた。「犯人当て」のクイズ形式でデビューした著者らしい考え方であり、デビュー以後ももクイズ形式のスタイルをとった作品は多い。ただ、「論理的な解明」を第一に置くのはいいとしても、それを軒並みクイズ形式にするのは、小説としての潤いや魅力を欠いてしまい、かなりもったいない感じを受ける。

 というのも、そもそも著者が文学畑の人であることも影響しているのだろうが、作品のなかに描かれている人間ドラマはけっこう濃いめの設定や味つけがされており、これがなかなかいいのである。特に痴情のもつれをテーマとする作品群は心理描写も豊かで文章も悪くない。
 それだけに途中で〈解決編〉とかやられると興醒めというか、あえてクイズ形式にする理由がわからない(もちろん掲載誌の注文なんだろうけれど)。
 まあ、そこまで極端ではないにしても、ストーリーの構成にも影響が出ているような場合もあって、構成を変えればより劇的に、あるいはスムーズに見せられるのになぁという印象を受ける作品がちらほら。結果的に本格探偵小説としても中途半端なところが見受けられる。

 ということで、文学と推理小説を分けたがった千代有三であるが、本書を読むかぎりでは、両者の融合を感じられる作品の方が面白かったのは皮肉である。欠点もあるけれど、「肌の一夜」、「エロスの悲歌」、「美悪の果」あたりは独特の世界感もあって惹き込まれた。アンソロジーなどにも採られるデビュー作「痴人の宴」は、この三作に比べるとやはり薄味で、一枚落ちると言わざるをえない。

 なお、著者と同じく文学教授の園牧雄というシリーズ探偵がいくつかの作品に登場する。キャラクター自体は内省的なところもあって興味深いのだが、こういう設定のキャラクターが度々事件に遭遇し、積極的に捜査に関わること自体に違和感があり、個人的にはむしろ別々の探偵役を起用した方が物語にあっているように思う。

 ともあれ、トータルでの印象は悪くない。この印象が薄れぬうちに、なるべく早く続刊の『千代有三探偵小説選 II』にも取りかかりたいところである。


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