湘南探偵倶楽部さんの復刻した短編、アーサー・コナン・ドイルの『その夜』を読む。『新青年』の1928年3月号に掲載された4ページ程度の怪奇小説で、短編というよりは掌編といったほうがよいだろう。

ある深夜のこと、富豪の紳士が駅に降り立つと、待っていたのは買い換えたばかりの新車で迎えに来たおつきの運転手。紳士は自分でも新車を運転したくなり、ギアが難しいからとなだめる運転手の言葉も無視し、自宅まで二十マイルはあろうかという道のりを走ることにする。
ところが初めは快調だった深夜のドライブも、次第にシフトやブレーキの調子が悪くなり、自動車は暴走を始めてしまい……という一席。
暴走する車を静止しようとする場面がリアルなので、ついついスリラー系の作品だと思って読んでしまうが、ラストには意外なオチが待っており、これは今でいうショートショート風の作品なのだとわかる。
まあ、今では手垢のついたネタではあるが、文章の雰囲気もかなりよくて、時代を考えるとこれは思わぬ拾い物という感じだ。どうやらモーリス・ルヴェルなども訳した田中早苗の翻訳によるものらしく、道理で、といったところ。
なお、管理人はおそらく初めて読んだはずだが、いかんせん原題や原作がどの短編集に収録されたものかの情報が不明で、もしご存知の方がいたらご教授願いたい。