毎月のようにレアなミステリを復刻している湘南探偵倶楽部だが、今月購入した短篇の一つもかなり珍しい。かつて博文館『世界探偵小説全集』の第一巻「古典探偵小説集」に収録されていた、ミゲル・デ・セルバンテスの『サンチョー・パンザの名裁判』である。

サンチョ・パンサ(一般的にはこちらで通っているので、以後こちらの表記で)といえば、セルバンテスの書いた『ドン・キホーテ』の重要な登場人物の一人。主人公ドン・キホーテに従い、旅を共にする農夫である。サンチョは作中で、ドン・キホーテから「将来島を手に入れたら統治を任せる」と言われるのだが、本作はなんとサンチョ・パンサがその島の総督として登場し、争い事を裁くという短編である。言ってみれば法廷もの、さらにいえば大岡裁きものだ。
短編ながら三つの事件を詰め込み、論理的というよりはトンチで解決する、まさに大岡裁き。釈然としない理屈もあるけれど、思った以上にしっかりした作りである。
ただ、ちょっと気になったのは、ミゲル・デ・セルバンテスが本当にこんなミステリ寄りの小説を書いていたのかということ。特に三方損みたいな話まであって、もしかして日本人作家が創作した贋作……なんてことはあるのかしら?