クラシックミステリの同人誌『Re-ClaM』の別冊、ホレーショ・ウィンズロウ&レスリー・カークの『虚空に消える』を読む。
本書を読むまで作者も作品もまったく知らなかったが、ミステリ研究家ロバート・エイディーのアンソロジー『これが密室だ!』で、エイディーが選んだ不可能犯罪物ベストファイブの五作目候補として紹介された作品とのこと。
ううむ、『これが密室だ!』は読んでいるのに全然覚えてなかったぞ(苦笑)。ま、それはともかくとして、そのベストファイブの五作目候補には、他にブランドの『ジェゼベルの死』、スラデックの『見えないグリーン』もあがっているので、普通に考えたらかなり期待できそう。ただ、もともと賛否両論ある作品らしく、キワモノの香りも濃厚そうで、それはそれで期待できそうである。

超自然的な能力を持つと言われていた犯罪者セイラム・スプーク。空中を浮遊し、閃光とともに消失し、密室からも易々と逃げうせる。しかし、そんな怪盗も列車事故で死亡し、埋葬されたはずだった。ところが霊媒師のイカサマを暴く会に参加した一行の席で、かつてセイラムを逮捕した名探偵クロッツ博士への復讐を宣言する……。
ああ、これは賛否両論あるだろうな。端正な本格ものとは決していえないし、傑作ともいえない。けれど非常に意欲的な作品だし、独特の魅力があることも間違いない。
要は不可能犯罪もの、密室ものなどというフィルターを通すからいけないのだろう。確かに密室から幽霊まで不可能犯罪の要素をバンバンと繰り出してくるので、これでは謎解きやトリックにばかり目がいくのは当然。それでいて期待したほどのネタではないから、そりゃあ企画倒れみたいに受け止められるのは致し方あるまい。
しかし、本作の本当の魅力はそこではないのだろう。個人的に面白く感じたのは、ミステリの定石を踏まえたうえで、それを外すプロットやキャラクター造形の捻り方だ。特に多重解決を披露するラストは圧巻。読んでいる間に感じていた、妙な引っ掛かりが氷解するのはなかなかのカタルシスである。ただ、それがトリックやロジックによるものではないのだけれど(苦笑)。
極端なことを言えば、本作はサスペンスものである。特に乱歩の二十面相の世界観にサイコサスペンスを加えたようなイメージで受け取めると、実はすんなり楽しめるのではないか。個人的には満足である。