シーリア・フレムリンの『溺愛』読了。
フレムリンの作品を読むのは初めてだが、ハイスミスやレンデルらと同じく心理サスペンスを得意とする女流作家であることは知っている。実はあまりこの手のものが得意じゃないのだが、食わず嫌いも何なので試してみた次第。
主人公は二人の娘を持つ母親、クレア・アースキン。長女のサラが会計士マーヴィン・レッドメインと婚約したのはよいが、二人の披露パーティーでなんと肝心のマーヴィンが欠席。しかもその理由が、母が一人きりになって寂しがるから、というではないか。やがてマーヴィンの母親がとてつもなく息子を溺愛する性格で、片時も離したがらないことが明らかとなり……。
とりあえず序盤は想像どおりの展開と語り口だ。小さな悩みはいくつかあるにせよ、主人公はごくごく平凡に暮らす主婦。それが長女の婚約をきっかけにして、主人公の周囲に非日常が入り込み、じわじわと主人公の不安をかきたててゆく。このあたりが女流作家ならではのテクニックであり、同時に個人的に辛いところなのだが、そう感じさせている時点で作家の勝ちなのだろう。
ただ、中盤を過ぎる頃になると、物語には大きな逆転が生まれ、それがなかなか巧い。単なる心理サスペンスがサイコに変貌する瞬間といってもよい。
残念なのはそこから一気にクライマックスにもっていけばよかったものを、また元の調子に戻してしまっていること。せっかくのサプライズを帳消しにしてしまい、なんとも中途半端な出来となってしまった。残念!