デイヴィッド・ハンドラーの『殺人小説家』読了。
元売れっ子作家にしてゴーストライターのホーギー。そんな彼のところへ1章分の小説と手紙が送られてきた。その出来の良さに驚いたホーギーだが、翌朝その小説に書かれたとおりに殺人事件が発生する。いったい誰が、何のために? 警察の捜査も開始されるが、それをあざ笑うかのように第二の殺人が起こり、小説の第2章も送られてくる。このときホーギーは、警察に話せないある事実に気がついていた……。
まずは及第点といってよいだろう。シリーズのファンなら、ホーギーとルルやメリリーとのやりとりだけでも十分楽しめるし、やはりその点が一番の魅力だとは思う。だがハンドラーの偉いところは、それで満足することなく、ミステリーとしてもしっかりツボを押さえた作りを実現している点だ。本作でもパズラーに負けないぐらい伏線や手がかりを配し、きれいにオチを決めているのはさすが。傑作とまではいかないが、誰にでも安心しておすすめできる良心的な一冊である。
ただ、本書を最後に本国ではシリーズが途絶えているらしく、それがなんとも残念だ。やや印象的なラストシーンではあるが、ここで打ち止めにするようなラストでもあるまい。しばらくは別シリーズで鋭気を養い、またホーギーの復活を願うばかりである(シリーズが復活した際は、トレーシーがけっこういい役回りで登場しそうな気がする。あくまで予想だが)。