本日もROM叢書からの一冊。T・H・ホワイトの『ペンバリー屋敷の闇』。個人的にはまったく知らない作家だったが、インターネットでザクッと調べてみると、フルネームはテレンス・ハンベリー・ホワイト。本書こそミステリだが、基本的にはファンタジーで知られたイギリスの作家であり、我が国でも創元推理文庫で『永遠の王 アーサーの書(上・下)』が邦訳されている。
ケンブリッジ大学の学生が下宿で銃殺されるという事件が起こり、その翌朝には向かいにあるセント・バーナーズ・カレッジの一室で、評議員が銃殺死体となって発見される。しかも評議員の死は密室状態であった。当初は評議員が学生を殺害し、自殺したのかと思われた。
しかしブラー警部はすぐに死亡した評議員の犯行ではないと見抜き、別の人物を犯人と考える。当の本人はあっさりと犯行を認めたが、立件するほどの証拠がなく……。
販売サイトやSNSなどでも普通に書かれているのでネタバレにはならないと思うが、一切の先入観なしで読みたいという方は、以下の文章にご注意ください。

本作最大の驚きはその構成である。単純に大きく二部構成を取っているのだが、第一部と第二部でまったくテイストが異なっているのだ。すなわち第一部ではオーソドックスな本格探偵小説だが、第二部ではサスペンスに変わるのである。しかも第一部は全体の三分の一ほどしかなく、そこで犯人も明らかになる。それを踏まえての、サスペンスの第二部というわけである。
もちろん本格の中にもサスペンスを効かせたものはあるし、サスペンスでも謎解きを重視している作品もある。だがそういう融合した形ではなく、完全に第一部と第二部でスタイルを分けたところがミソだろう。正直、読み終えた今でも著者にどういう思惑があったのか不明である。これが出来の悪い作品なら単に構成が下手なだけだと思うところだが、刊行された1932年という時代を抜きにしても、本格の第一部もサスペンスの第二部もなかなか悪くないのだ。それだけに余計、このアンバランスな構成が不思議でしょうがない。
単なる想像に過ぎないが、これは狙って書いたというより、犯人と探偵役の物語を書く中で、当時流行っていた本格探偵小説のスタイルを導入として活用した、というところではないだろうか。
ちなみに著者はファンタジーで知られていると上で書いたが、実はそんなものではなく、本国イギリスでは多くのファンタジー作家やSF作家に影響を与えたほどの存在らしい。あのハリー・ポッターの生みの親、J・K・ローリングも、ダンブルドア等のキャラクターなどにその影響を認めている。『永遠の王 アーサーの書(上・下)』に登場する魔法使いマーリンがそのモデルらしいので、ハリー・ポッターファンは確かめてみるのも面白いだろう。