S・A・コスビーの黒き荒野の果て』を読む。しばらく前にネット上で評判になっていたため、気になっていた作品である。
こんな話。裏社会で凄腕のドライバーとして知られていたが、今は足を洗って自動車整備会社を経営するボーレガード。だが会社の経営が徐々に苦しくなり、金策に走るボーレガードの前に昔の仕事仲間ロニ-が現れる。
ロニーの持ち帰かける宝石店襲撃計画に、家族の平和を考えて一度は断ったボーレガード。しかし、不運が重なり、窮地に追い込まれたボーレガードは一度だけならと計画に参加する。だが、襲ったダイアモンドがギャングが隠し資産だったことで、ボーレガードと家族の身に危険が迫る……。

かつての犯罪者が悔い改めて堅気になったものの、思うようにはいかず再び悪の道に入るストーリー。そんなの今まで何度も読んできた気がするし、しかも家族まで危険な目に遭わせるのが個人的には好きではないので、最初はどうかなと思っていたが、この新人作家さんは途轍もない筆力で、そんな杞憂を一気に吹き飛ばしてくれる。まさに絶品のクライムノベル。
何といっても主人公ボーレガードのキャラクターが良い。
安寧を求め、家族を第一に想ってはいるが、だからこそ犯罪に手を染めてしまう矛盾。妻に責められて葛藤はするが、いざその場に身を置くと、ある種の達成感や高揚感に満たされるのも事実。錦の御旗を掲げつつ、一線を越えると敵の命を奪うことに躊躇はない。
反社会的な生き方でないと現状を打破できない、こうした葛藤や矛盾に包まれるボーレガードだからこそ、その生き様が胸を打つのだ。
そうした人物描写に加え、アクションシーンも凄い。特に車やカーチェイスの描写は実にリアルで迫力満点。導入の公道レースから引き込まれるし、宝石店襲撃やクライマックスのシーンなど、カーチェイスのファンには悶絶ものだろう。
決して短い話ではないが、それらのアクションシーンが随所に盛り込まれることで、まったく退屈することがない。宝石店襲撃からギャングが乗り出してくる中盤以降は一気読み、まさにアクセル全開の一冊である。