「松本清張短編全集」を読破し、続いては長篇ミステリを片付けようと思い立って早九年。しかし読めた作品はわずか六冊、最後に読んだのが三年前という体たらくである(笑)。もちろん飽きたわけでもなくつまらないわけではない。それどころか種々の気づきもあり、ますます完全読破の気持ちも強くなっていたのだが、まあ、要は次から次へと読みたい本があって、いつの間にか忘れていただけである。松本清張以外に昭和の作家、たとえば笹沢左保や多岐川恭、梶龍雄に中町信、結城昌治や連城三紀彦、泡坂妻夫などなども完読したいと思っているし、いくらなんでも時間が足りなすぎる。
とまあ、そんなことを思っていても始まらないので、とりあえず清張読破に弾みをつけるべく、『文庫ナビ 松本清張』を読んでみた。清張の初心者向けガイドブックである。

まずは目次を載せておこう。
松本清張を知るための5つのキーワード
①社会派/②破滅する男女/③鉄道旅/④映画とドラマ/⑤昭和を暴く
ジャンル別! 松本清張作品ナビ
推理長編/名短編/歴史・時代小説/ノンフィクション/古代史
コラム「永遠の灯台」森村誠一
講演探録「私の発想法」
清張映画・清張ドラマの魅力
評論「松本清張映画ベストテン」長部日出雄
エッセイ「家政婦は何を見た?」柚木麻子
スペシャル・インタビュー「やれるだけの悪をやってやろう」米倉涼子
コラム「ルサンチマンの文学」郷原宏
「評伝 松本清張」権田萬治
予想以上にしっかりした内容で感心してしまった。作品ガイドはもちろんだが、松本清張の人となりを端的に理解できるエッセイ、評伝が網羅的に収録され、初心者や入門者には十分すぎる内容である。
文庫ゆえ図版などは少ないし、記事には再録もある。本書以上のボリュームがある清張ガイドはいくらでもあるのだろう。それでも文庫で値段を抑え、ここまでバランスよくガイドブックを構成してしまう編集のセンスに感心してしまった。
再録記事にしても、そもそも今ではなかなか読めないものが中心だし、何より再録するだけの価値がある。特に森村誠一が清張との思い出を描いた「永遠の灯台」は、大家となった清張が相変わらず緩慢さとコンプレックス併せ持つ複雑な人間であることを教えてくれて興味深い。
また、講演探録「私の発想法」は清張が初期作品について執筆秘話を語るというもので、個人的にはほとんど清張のエッセイを読んだことがないため、これまた非常に面白く読めた。
米倉涼子のインタビューも、清張ドラマで数多く主役を演じてきた彼女だけに全然OK。さりげなくこういう記事を新規で入れ込んでくるところも編集の妙なんだよなあ。
しいていえば初心者向けにしては少々内容が重いところが気になるけれど、まあ清張ファンであればこのぐらいがちょうどいいのかもしれない。