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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

ジプシー・ローズ・リー『Gストリング殺人事件』(国書刊行会)

 国書刊行会からスタートした山口雅也氏監修によるシリーズ〈奇想天外の本棚〉。本日の読了本はその二冊目、ジプシー・ローズ・リーの『Gストリング殺人事件』である。
 いきなり横道にそれるけれど、〈奇想天外の本棚〉スタートにあたって国書がTwitterキャンペーンを行い、『九人の偽聖者の密室』の感想を呟いた人から九人(だったかな?)を選び、山口氏サイン入り『Gストリング殺人事件』をプレゼントした。管理人はそこで首尾よく九人に選ばれて本書をゲットしたのだが、その頃にはとっくに購入済みだったんだよなあ。まあサイン入りだからありがたく頂戴したけれど、どうせだったら当時まだ発売予定だった『死体狂躁曲』にしてくれるとよかったのに(苦笑)。

 それはともかく。『Gストリング殺人事件』だが、こんな話。
 ストリッパーのジプシー・ローズ・リーは、旧知の興行主モスに誘われ、ニューヨークのオールド・オペラ劇場に移籍した。一見、華やかな世界ながら、裏では踊り子同士のいがみあいや出演者同士の色恋沙汰など騒がしい毎日。ときには警察の手入れもある始末だ。そんなある日、楽屋で開かれたプチパーティの席上で、皆から嫌われていたラ・ヴェルヌの死体がGストリングを首に巻きつけた状態で発見される……。

 Gストリング殺人事件

 本作はアメリカン・バーレスク(ストリップやコメディを組み合わせた大衆向けのエンターテインメントショー)を舞台に、劇場スタッフやストリッパー、コメディアンらのドタバタ騒動を描いたユーモアミステリだ。著者のジプシー・ローズ・リーは実際にアメリカン・バーレスクで踊り子をしていたスターでもあり、本作はその経験を生かしたミステリなのである。
 しかし、彼女がクレイグ・ライスと親交のあったこと、作風がライスに似ていたこともあって、ミステリ界隈では長らくライスがジプシー・ローズ・リーのゴーストとして書いた作品だと言われてきた。ミステリ関連署でも普通にライスの別名義作品と記されていることがほとんどで、管理人もまったくそれを信じて疑わなかったのだが、どうやらそれは大きな間違いだったようだ。
 つまり本作は紛れもなくジプシー・ローズ・リーが自ら書いた作品であるらしい。このあたりは本書の解説に詳しいが、それを読むと確かに状況証拠は圧倒的にジプシー・ローズ・リーに有利である。決定的な証拠がないとはいえ、もともとジプシー・ローズ・リーの作品として発表されているのだし、今後は記述や認識を改めるべきだろうな。
 ちなみにジプシー・ローズ・リーの作品はもう一冊、本作の続編があって、論創海外ミステリから『ママ、死体を発見す』の題名で発売されている。こちらの解説でも、実はこの問題に触れており、ライスのゴースト説が怪しいことを認めつつライスの作品であってほしいと書かれている。ただ、当時はともかく今後はこちらもジプシー・ローズ・リーに変更すべきなんだろうね。拙ブログでもカテゴリーをリー(ジプシー・ローズ)に改めておこうと思う。

 中身についても一応触れておくと(笑)、ライス作品と信じられてきたほどなので出来は悪くない。それこそライス顔負けのドタバタをベースにしつつ、犯人当て小説としては十分なレベルである。もちろんガチの本格を期待するとちょっと違うのだけれど、真相が複雑な割にはストーリーに絡めてうまく着地しており、けっこう鮮やかな手並だ(こういうところがあるから余計ライスだと思われたんだろう)。
 クセのある登場人物が多いうえ、常にハイテンションなストーリーなので、前半は少しガチャガチャした印象があるけれど、何よりアメリカン・バーレスクという世界、ストリッパーをはじめとするショー関係者の様子をイキイキと描いた作品として、記憶に残る一冊といえるだろう。


クレイグ・ライス『ママ、死体を発見す』(論創海外ミステリ)

 クレイグ・ライスの『ママ、死体を発見す』を読む。
 先日読んだクリスチアナ・ブランドとほぼ同時期に活躍した女流ミステリ作家だが、その作風は正反対だ。ブランドは地味ながらねちっこい心理描写と斬れ味鋭いロジックが特徴の正統派本格、片やライスはドタバタをふんだんに取り入れたユーモアが身上の本格作家である。
 出身も作風も違うこの両者だが、人生に対するシニカルな見方などは意外と似ていたりして面白い。ブランドは人生そのものに対して醒めたところがあり、ライスは真っ向から人生の不条理に対して笑いとばす。それぞれ表現方法は異なるけれども、そういう描写が多いほど傑作になっているような気がする(いや、あくまで勝手な想像だけれど)。

 それはさておき。こんな話。
 元ストリッパーで今はブロードウェイ女優のジプシー・ローズ・リー。コメディアンのビフと結婚し、トレーラーハウスで新婚旅行にでかけたのはよいが、母親や友人に一声かけているうちに、いつのまにか新婚旅行は団体旅行へ。しかも遂に死体までが現れて、それを勝手に母親が処分しようとしたから、さあ大変……という一席。

 ママ、死体を発見す

 本作はジプシー・ローズ・リー名義で発表された二作の長篇のうちのひとつ。ジプシー・ローズ・リーは実在した人物で、本作の主人公として登場しているとおり、元ストリッパーのブロードウェイ女優だ。その人気絶頂の頃に第一作目『Gストリング殺人事件』が発表され、人気を博した。
 とはいえ、発表の頃から代作の噂はあったようで(詳しくは本書解説にあるので興味ある方はそちらで)、要は親交のあったクレイグ・ライスが代作したというのはほぼ既定の事実と見て間違いないようだ。

 実際、本書はのっけからクレイグ・ライス節炸裂。既に死体と同居している状態で物語が幕を開け、そもそもこの事態はいかにして起こったか、そして振り返るまもなく起こる火事やら第二の死体やら、しかもその事件を隠蔽しようとする者が身内に続出……等々、矢継ぎ早のハチャメチャな展開はもう完全にライスのスタイル以外の何ものでもない。
 そんなドタバタ満載の流れから、ときおりポロッと顔を出す人情味、あるいは最初に挙げたシニカルな物の見方などもいいアクセントになっている。
 端正な謎解きミステリを期待するとちょっとアレだが(苦笑)、そもそも本書はいわゆるスラップスティックとかスクリューボール・コメディを満喫するタイプの作品なので、変な勘違いさえしなければ十分に楽しめる一冊といえるだろう。



※2022.12.13追記
本作の邦訳はクレイグ・ライス名義で出版されましたが、その後、著者がジプシー・ローズ・リーである説が有力であることから、カテゴリーをリー(ジプシー・ローズ)に変更しました。


プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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