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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

“探偵小説の鬼” 横溝正史生誕120周年記念企画展「金田一耕助さん!埼玉で事件ですよ」

 埼玉県は桶川にある「さいたま文学館」で開催されている〈“探偵小説の鬼” 横溝正史生誕120周年記念企画展「金田一耕助さん!埼玉で事件ですよ」〉。ようやく先日、訪れることができたので、少し感想などを残しておこう。

 金田一さん事件ですよ_入り口

 金田一さん事件ですよ_看板
 ▲入り口はこんな感じ。平日昼間ということもあり人はまばら。土日はどんな状況なのだろう。

 さいたま文学館には以前、「江戸川乱歩と猟奇耽異」展で訪れたことがあり、今回が二度目。自宅からは電車で片道二時間ほどの距離で、そこまで遠くはないけれど、観覧時間と往復時間、休憩時間なども入れるとまあまあ一日が潰れてしまうので、それなりに気合いが入る(笑)。
 ただ、金田一耕助と埼玉の接点が基本的に薄く、「貸しボート十三号」ぐらいしか思いつかないので、あえてここでやる理由はなんだろう?なんてことをTwitterで呟いたところ、ある方からレスをいただく。すると前回訪れた「江戸川乱歩と猟奇耽異」展の方は作家の北村薫氏や「文豪とアルケミスト」などの関係から実現したのでは、ということらしい。とはいえ、やはり今回の金田一に関しては詳しいことは不明である。するとさらなる情報として、以前に狭山でも金田一関係の企画展があり、その際は学芸員が金田一ファンだったことで実現にこぎつけたとのこと。
 なるほど、直接のつながりが思いつかないので、今回もその線なのかも。まあ、開催してくれれば理由は何でもいいんだけれど(苦笑)。

 ——と思っていたのだが、正直いうと今回はちょっと物足りなかった。
 企画自体は悪くない。今回の企画展は金田一耕助の登場する作品を、事件が発生する順番で紹介しようというもの。人気キャラクターでそれなりのボリュームあるシリーズだからこそできる遊びであり、ホームズや明智小五郎では同様の主旨で編集された全集や叢書も出ているほどだ。これを金田一耕助でやってくれるのは面白いに決まっている。
 実際、展示スペースで事件順に並べられた本を見ているのはなかなか壮観で楽しい。また、ネットで研究家の方々がで披露している事件の順番とは多少の相違も見られたりして、この辺は解釈の違いもあるのかと興味深いところでもある。

 じゃあ何が不満なのかというと、単純に展示スペースが小さすぎるのである。今回は貴重な展示物を見せるというより、企画色の強いイベントだ。本を事件順に並べればお題は達成できるわけで、逆にいうと本当に本を並べただけでほぼ展示が終わっている。その辺のコンビニより狭い。新たに発見された創作メモ、角川文庫版を描いた杉本画伯の原画が二点、映像関係のシナリオや原作との相違点の解説などもあるけれど、これだけでは全然ボリューム不足だ。
 それでも、これがデパートなどの一角でやるイベントというのなら、まあこんなものかなと思うのだが、なんせハコがさいたま文学館。大ホールや研修室などを備えた立派な建物だけに、展示スペースの小ささが余計気になるのである。

 繰り返すが企画自体は悪くない。しかし、せっかくの人気コンテンツを使うのだから、もう少し集客できるよう努力はしてもらいたい。ハコ自体はあの世田谷文学館と同じぐらいの規模があるのに、展示スペースや見せ方には大きな差があるのが何とも歯がゆい。
 たとえば年代特定の根拠なりをわかりやすく各作品ごとにつけるとか、現在入手可能な本で読むなら、どういうセレクトがいいのか、やり方はいろいろあるはずだ。
 こちらが知り得ない諸々の事情はあるのかもしれないけれど、ぜひ奮起を期待したい。

 金田一さん事件ですよ_メニュー
 ▲館内のカフェでコラボもやっている。努力は認めるがアニメやゲームのイベントを少し参考にした方がいい。

 金田一さん事件ですよ_パンフ
 ▲パンフとチラシ。権利関係もあろうが、こちらも図録レベルまで上げて、一通りの事件のカバーを全掲載してほしかった。

YOUCHAN個展 本を巡る冒険3 本の中の綺羅星たち

 昨日のことになるが、吉祥寺はgalley shell 102で開催されている「YOUCHAN個展 本を巡る冒険3 本の中の綺羅星たち」を訪ねてきた。前回は都合が合わなかったため、今回は絶対に行こうと思っていたイラスト展である。
 吉祥寺駅前のヤマダ電気脇の一本道を進むこと七分あまり、だんだん店舗も少なくなって、初めてくる人は若干不安になる頃に画廊galley shell 102がある。平日の昼間なので人は少なく、入った途端にいきなりYOUCHANさんと、おお、北原尚彦さんがいらっしゃる。あとは画廊のスタッフさん(?)と思しき方が一名、そして関係者らしきお客さん。なかなかのアウェイ感ではあるが、さすがにこちらもいい年なので特別気にせず、ゆっくりと展示イラスト等を観てまわる。

 YOUCHANさんについては以前、『ゾランさんと探偵小説』の記事でも書いているとおり、盛林堂や彩流社の装画で知ったイラストレーターさんだ。ちょっと切り絵っぽいタッチであり、それがファンタジックなテーマとマッチして個人的にはすごく好きなテイストだ。最近では盛林堂さんだけでなく、幅広くミステリ関係の挿画をやってらっしゃるようで喜ばしいかぎりである。
 ミステリ関係についてはもっぱら大正昭和初期のものが多いためだろう、レトロモダンな感じのイラストも増えてきているようで、これがまた古い日本というだけではなく、パラレルワールド的な日本のような雰囲気もあり実に面白い。

 作品を見終わり、あとはお土産に今回の図録と画集の『YOUCHANイラストレーション集成1998-2018』を購入。そして他にお客さんがいないのをいいことに、サインをお願いし、さらには創作の話を聞かせてもらったり、つい先ごろテレビで放映していた千金についても雑談する。
 ちなみに、このときサインの為書きのために身分を明かしたのだが、YOUCHANさんも北原さんも当ブログをご存じだったのが嬉しかったぞ。

 なお、上で購入したもの以外に、ポストカードなどいろいろ付録もつけてもらって本当に感謝です。ということで短いながらも充実した個展訪問でありました。どうもありがとうございました。


▲左が画集の『YOUCHANイラストレーション集成1998-2018』、右が今回の図録。


▲購入するときに何だかいろいろつけてくれてるなとは思ったが、ポストカードに小冊子、盛林堂目録まで入っていて驚いた。
小冊子はラフスケッチで、これはマニアが泣いて喜ぶやつ。


▲探偵小説三昧としてサインをもらいました。ありがとうございますありがとうございます。

青梅市吉川英治記念館

 用事があって青梅まで出かけたのだが、そのついでに「吉川英治記念館」を訪問する。一度は入りたいと思っていただけに喜びもひとしおである。
 なんせ吉川英治記念館はかつて2019年3月に一度閉館していた。理由は単純、来館者の減少ということで、経営が続かなくなったらしい。これはショックだった。そこまで遠くない場所だし、いつでも行けると安心していたのが間違いのもと。そもそも国民的小説家の記念館が潰れるんだという驚きもあった。
 それがいつの間にか再オープンしている。調べてみると、なんとコロナの最中、2020年の9月のことである。元々の事業母体である公益財団法人吉川英治国民文化振興会が閉館後、庭園を含む約5000平方メートルの土地や建物、1万点を超える資料に至るまで青梅市に寄付し、それを青梅市が受け継いで、再開間にこぎつけたらしい。詳細は知らないが、おそらく貴重な資料やら一切合切を消散させないための施策だったのだろう。
 今回、現地を見学して思ったが、広大な庭園などは維持費も膨大だろうと推測され、衰退する来館者数を考えると簡単な話ではなかったろう。青梅市としても相応の覚悟が必要だったはずで、よくぞ再開を決断してくれものだ。

 展示内容に関しては公式HPをを見てもらう方が早いので、リンクだけ貼っておこう (吉川英治記念館)。生原稿などはもちろん興味深いのだが、個人的にはむしろ吉川英治が十年近く暮らした屋敷と庭園を、ゆっくり見て回ることができたのがよかった。

吉川英治記念館01
▲駐車場から外観を望む。日曜日だが残念ながら来館者は少ない

吉川英治記念館05
▲常設の展示室。現在はコーエーテクモの三国志とコラボ展示中である

吉川英治記念館06
▲庭園は予想以上に広くて立派

吉川英治記念館07
▲書斎の中は残念ながら入れず。入り口から覗くにとどまる

吉川英治記念館09
▲入り口付近から母家を望む。個人的にはこの母家に入れるのが最もよかった

吉川英治記念館グッズ
▲つい嬉しくてオリジナルのブックカバーやキーホルダー、せんべいまで買ってしまう

『出版120周年 ピーターラビット展』に行ってみた

 英国の作家ビアトリクス・ポターが生んだピーターラビット。その物語が出版されて今年で120周年ということで、世田谷美術館で「出版120周年 ピーターラビット展」が開催されており、本日、足を運んでみた。

出版120周年ピーターラビット展_01
▲世田谷美術館は砧公園内にあって、鑑賞後の散歩も悪くない。まあ、本日は雨でしたが。

 展示内容としては、ピーターラビット誕生から出版までの道のり、その後のブレイクの様子や著者自らが監修したグッズ展開に至るまでを、原画や現物と共に理解するというもの。
 個人的にはマニアというほどではないが、原作は一応すべて所持して読んでいるし、映画化作品はもちろんバレエ作品や著者の伝記や著者自身の障害を映画化したものもひと通り押さえている。埼玉県のビアトリクス・ポター資料館や何年か前にあった「ビアトリクス・ポター生誕150周年ピーター・ラビット展」なども見学済みなので、まあ、そこそこファンと言ってもいいだろう。
 だから展示会などで許可されるような原画などはある程度見たことはあるはずだが、けっこう初見のものも多くて十分に楽しめた。とりわけ面白かったのはピーターラビットのグッズ展開に対し、ポター自身がかなり乗り気だったことで、ボードゲームとかも自分でデザインはもちろん内容も企画しており、そのサンプルが展示してあるのはなかなか興味深かった。

出版120周年ピーターラビット展_02

出版120周年ピーターラビット展_03

 なお、中は撮影禁止だが、一部、撮影コーナーが何箇所か設けられていて、女性ファンがひっきりなしに撮影しておりました(その中に混じっているオッサンの自分はなんなんだろう(笑))

出版120周年ピーターラビット展_04
▲お土産はお約束の図録。相当なボリュームで2700円弱だからこれはお得。

神奈川近代文学館「永遠に「新青年」なるもの」

 『新青年』の創刊101年を記念して神奈川近代文学館で開催中の「永遠に「新青年」なるもの」を観覧する。戦前の探偵小説関係の催し物など滅多にないのに、今年はさいたま文学館で「江戸川乱歩と猟奇耽異」もやっているし、ありがたいことである。ことに今回はテーマが『新青年』ということもあるので、戦前探偵小説好きにとって行かないという選択肢はない。
 場所もいい。神奈川近代文学館は過去にも「大乱歩展」を開催してくれた思い出深い場所だが、単純に立地がいいのだ。港の見える丘公園に隣接しているだけでなく、その隣にはさらに元町や山下公園、中華街なども広がり、観覧後の散歩や買い物に最適である。
 唯一面倒だったのは、今回は日時指定の事前予約が必要だったことだが、私ごとになるけれど、最近、会社勤めをやめたこともあって、空いている平日に行けたのでノープロブレムである。

永遠に「新青年」なるもの_02
▲神奈川近代文学館の入り口にある案内板。

 展示物は『新青年』に関与した作家や翻訳者、編集者の生原稿や製作物がメイン。江戸川乱歩や横溝正史の生原稿はこれまでもいくつか見てきたので今更驚かないけれど、今回は小酒井不木や大下宇陀児、甲賀三郎、浜尾四郎、木々高太郎、渡辺温、渡辺啓介、夢野久作、小黒虫太郎、佐藤春夫、谷崎潤一郎などなど圧倒的なラインナップ。
 加えて松野一夫や木村荘八といった面々の挿画、さらには探偵小説以外に紙面を彩ったスポーツ選手やファッションなどの同時代のグッズの数々、トドメに『新青年』全冊の一挙展示と、眺めているだけでちょっと頭がクラクラするぐらいの陣容である。
 今後トークイベントや講演会も各種予定されているので、タイミングが合えばぜひ参加したいものだ。ただ、土曜開催が多いので、ちと人出が心配ではあるが。

永遠に「新青年」なるもの_01
▲お土産は恒例の図録。左にあるのは図録購入者に付録としてもらえる「新青年バッジ」

永遠に「新青年」なるもの_03
▲バッジのアップ。缶バッジと言われなければわからないぐらいい雰囲気です

 ということで、こちらは5月16日(日)までの開催。この方面が好きな人なら大変楽しめるのでぜひどうぞ。日時指定の事前予約が必要ですが、密もしっかり回避しております。さいたま文学館もそうだったけれど、むしろ閑散としていて、そこが少し心配なんですが……。

さいたま文学館「江戸川乱歩と猟奇耽異」

 NHK-BSで放映された「シリーズ江戸川乱歩短編集」を観たり、『うつし世の三重 江戸川乱歩三重県随筆集』を読んだりと、最近、急に乱歩づいているが、本日も乱歩絡みの話題である。さいたま文学館で始まった「江戸川乱歩と猟奇耽異」展を見てきたので、そのレポートなど。
 この展示会については最近、知ったばかりなのだが、もともとは1月16日〜3月7日という会期だったらしく、それがコロナの影響で3月24日〜4月18日に変更されたもの。通常どおり開催されていたらすっかり見逃していたところなので、これはラッキーであった。先日、東京で唯一取扱している書店で『うつし世の三重 江戸川乱歩三重県随筆集』を買えたこともそうだが、少し探偵小説の神様から守られているのかもしれない(笑)。

 それはともかく。
 本展示会は乱歩の没後55年記念ということで、そのテーマは探偵小説と一般文壇の繋がりに置かれている。早い話が乱歩と純文学作家の交流に着目したものだ。だから乱歩以外の作家は、佐藤春夫や坂口安吾、谷崎潤一郎といった純文学畑がメイン。それらの作家が探偵小説に残した足跡、あるいは乱歩との交流の証を、生原稿や書簡という形で目にすることができる。
 もちろんこの辺の作家と探偵小説の関係はザクっとは知っているし、そういったアンソロジーもあるぐらいだが、久米正雄や正宗白鳥、萩原朔太郎あたりはこういう形で取り上げられることも少ないし、改めて見るとやはり面白い。
 特に朔太郎と乱歩の親密さにはちょっと驚いた。少年愛、酒に関してだけは不一致だったらしいが(笑)、それ以外はすべてに趣味が合致し、初めて会ったその日の夜遅くまで新宿のゲイバーなどで盛り上がったという。ただ、そもそも乱歩の作品に感激した朔太郎が、自ら乱歩に会いにいったくせに、後で「二人の関係はなるべく内密に」と乱歩に頼んだというのがひどい(苦笑)。

 まあ、そんなエピソードなども知ることができたし、ともあれ内容的には悪くない。残念なのはスケール的にそれほど大きくないところと、埼玉県桶川市というアクセスぐらいか。しかし常設展示の方でもミステリ関係があるし、近場の方は見ておいて損はないだろう。多少、遠い方でも、桶川名物のうどんを食しがてら出かけてみてはいかがだろうか。
 ちなみにTwitterで呟いた入場制限だが、慎重なのはよいけれど、あの人の少なさで制限かけるのはさすがにいかがなものかなぁ。

江戸川乱歩と猟奇耽異03
▲さいたま文学館。建物自体は素晴らしいのだが、どうにも活気が……

江戸川乱歩と猟奇耽異02
▲入り口にあったのぼり。個人的にはもっともっと煽ってほしい。

江戸川乱歩と猟奇耽異01
▲お土産の図録。左は付録のセル製しおり。これがなかなかいい。

 さあ、次は横浜の神奈川近代文学館で開催されている『創刊101年記念展 永遠に「新青年」なるもの』だな。

「不思議の国のアリス展」@そごう美術館

 昨日はそごう横浜店内にあるそごう美術館で開催されている「不思議の国のアリス展」をのぞいてくる。
 美術館主催ということで、文学的な考察や展示ではなく、アートとしてのアプローチというのがちょっと新鮮か。ルイス・キャロル自身が描いたアリスをはじめとするスケッチだったり、『不思議の国のアリス』の挿絵画家ジョン・テニエルの下絵、さらにはその他の挿絵画家や現代のアーティストによるアリス関連作品の展示という具合である。
 そのほか日程や時間によっては、アクセサリー作り等のワークショップ、朗読会、リアル脱出ゲームなどのコラボ企画があったり、なかなか賑やかである。
 とりあえず管理人的にはキャロルのスケッチとテニエルの原画が見られれば満足だったのだが、意外に現代アーティストたちの作品にも面白いものが多かった。とりわけウラジミール・クラヴィヨ=テレプネフ氏の写真作品、清水真理氏の製作した人形は、どちらもノスタルジーにゾクッとする色気や怖さがプラスされており、これらを見ることができたのは大きな収穫である。

 不思議の国のアリス展3
 ▲イラストで紹介するストーリーのコーナーのみ撮影可能

 不思議の国アリス展4
 ▲『鏡の国のアリス』コーナーはチェスをもじったモノトーンがオシャレ

 不思議の国のアリス展1
 ▲図録は絶対に買ってしまう。このほかブックカバーと栞も購入

軽井沢の古書店巡り

 この週末は遅めの夏休みをとり、草津温泉や軽井沢で骨休め。家族で旅行の際はさすがに古本屋へ寄ることはあまりないのだが、今回は軽井沢にある「追分コロニー」、そしてかつて堀辰雄らの文人も宿泊したという旅籠「油屋」を改装したアートスペース「油や」内にある「安房文庫」をのぞいてみた。

軽井沢追分
▲軽井沢追分の街道は石畳で雰囲気も抜群。ちなみにシャーロック・ホームズ像もこの近所にある

 どちらの店も扱っている本は幅広く、特に軽井沢に所縁のある本や作家を揃えている感じか。ミステリや幻想小説も予想以上にあって、品揃え的にはけっこう好み。内装も昔の雰囲気をいかしつつ現代風にアレンジした造りで悪くない。どうやら両店、同じ系列のようで、それも納得である。
 どちらも追分にあるので、ミステリファンならシャーロック・ホームズ像を見たついで、文学ファンなら堀辰雄文学記念館を見たついでに立ち寄ってみるのもよいだろう。追分は賑やかな軽井沢中心地とは違い、昔の街道の雰囲気を残したスポットで散策にもおすすめである。

油や
▲「油や」の店頭がこちら。本陣に使われていたこともありなかなかの佇まい

追分コロニー
▲こちらは「追分コロニー」。ミステリ成分も悪くない

 なお、こちらでの戦果は角川文庫の加納一朗を五冊ほど。加納氏はこの八月に亡くなったばかりで、これも縁かなと思い、すべて買ってしまう。論創ミステリ叢書にも昨年収録されたことだし、どこかのタイミングでまとめ読みしたいところだ。


「暗がりから池袋を覗く~ミステリ作家が見た風景~」@豊島区立郷土資料館

 週末の宿題二つ目は、池袋の豊島区立郷土資料館で開催されている企画展「暗がりから池袋を覗く~ミステリ作家が見た風景~」である。
 池袋に所縁のあるミステリ作家を通して、昭和初期から現代にかけての池袋・雑司が谷界隈の変遷を辿ろうというもの。取り上げられた作家は江戸川乱歩を筆頭に、大下宇陀児、飛鳥高、泡坂妻夫、京極夏彦という面々で、これは豪華だ。

 池袋がつい最近までかなり危険な街だったことは、昔から住んでいる人間ならみな口にするところだが、ミステリ作家の資料でもそれを匂わせる描写は少なくない。池袋には戦後のヤミ市の暗部をそのまま現代まで引きずってきているようなところがあり、それがまた危険な魅力にもなっていた。
 かくいう管理人も実は池袋駅から十五分ほど、旧乱歩邸からも五分ほどのところに住んでいたことがあり、池袋に魅せられていた一人である。

 展示物全体でいうと、まあ、昨日の記事で紹介したコレクション展「仁木悦子の肖像」もそうだったが、こちらも規模が小さく、あっという間に見終わってしまうレベルなのは人によって不満の残るところだろう。ただ、こちらが年をとったせいもあり、逆にゆっくり集中して見るには程よい感じであった。
 なかでも飛鳥高関連の展示というのはあまり記憶がなく、個人的には一番注目していたところである。仁木悦子と同様、プロットがチャート式で描かれていたり、トリックのメモがあったりと、こういうところに作家の性格や個性がはっきり現れるなぁと感心する。

 暗がりから池袋をのぞく_01

 なお、グッズとして図録、缶バッジ、手拭も販売していたが、この手のイベントとしてはなかなか良心的価格だったので、とりあえずすべて買ってしまう。乱歩はともかく飛鳥高や大下宇陀児のグッズというのはなかなか見ないしねぇ(笑)。
 図録は小冊子というようなものだが、写真を載せてはいお終い、というのではなくテキストメインなのが嬉しい。しかも300円だし。

「仁木悦子の肖像」@世田谷文学館

 この週末はいくつかミステリ関係で片付けておきたい宿題があって、そのひとつが世田谷文学館で開催されているコレクション展「仁木悦子の肖像」。京王線で芦花公園駅下車、歩いて五、六分というところなので、いつもなら大した距離ではないのだが、この暑さでは辛い。あっという間に汗だくになって世田谷文学館到着である。

 世田谷文学館といえば単なる文学におさまらず、映像や漫画、サブカルに至るまで、幅広い芸術を積極的に扱うことで知られているが、それでも仁木悦子の展示会とはなかなかやってくれる。
 もちろん仁木悦子の業績については今さら説明するまでもない。優れた作家というだけでなく、大きな病気によるハンディを背負いながら、日本に「推理小説」を広く定着させた功労者として、日本のミステリ史に欠かせない人物である。
 しかしながら、当時はともかく、今では一般的な知名度はそこまであるわけではない。というか彼女の業績を知らしめるようなイベントはこれまでもほとんどなかったはずで、そういう意味でも今回のコレクション展は実に意義のあることだろう。

 規模的にはそれほど大きなものではなかったが、推理作家・仁木悦子としての業績、童話作家・大井三重子としての業績、兄を失った戦争関連の記録、そして寺山修司との交友記録とけっこう盛りだくさん。コンパクトゆえ、かえって展示物をじっくり見ることができて、結果的にはこれぐらいの規模でちょうどいいのかもしれないと思った次第。
 個人的にもっとも興味深かったのが創作ノートの類。特にプロットは、登場人物ごとに時系列でチャート化されており思わずニヤリ。まさにミステリ作家のプロット作りのお手本のようであり、これを見れたのは大きな収穫だった。

仁木悦子の肖像_03
▲中は残念ながら撮影禁止だが、入り口で猫がお出迎え。

 仁木悦子の肖像_01
▲無料のパンフレット。変形版でB5にして4ページ相当。

仁木悦子の肖像_02
▲中はこんな感じ。展示もされていた日下三蔵氏による紹介文が全文載っているのが目を引く。

 というわけで会期は来月9月23日までということなので、興味のある方はぜひどうぞ。
 ちなみに10月からは「小松左京 展」とのこと。これまた楽しみである。
プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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