盛林堂ミステリアス文庫で新たなシリーズとして《ゾラン・ジヴコヴィチ ファンタスチカ》がスタートした。本日の読了本はその第一弾、『図書館』である。
ゾラン・ジヴコヴィチはセルビアの幻想文学系の作家で、盛林堂ミステリアス文庫としては珍しいラインナップだろう。ただ、そこまでマイナー作家というわけではなく、我が国でも古くは『SFマガジン』にいくつかの作品が掲載されているし、近年では黒田藩プレスから『ゾラン・ジフコヴィッチの不思議な物語』、東京創元社からは『12人の蒐集家/ティーショップ』が刊行されている。そして小説ではないけれど、ミステリ好きには盛林堂ミステリアス文庫から出たイラストレーター・YOUCHAN氏の図録『ゾランさんと探偵小説』で、その名を知った方も多いだろう(恥ずかしながら管理人もそのタイミングで知った次第)。
今回の《ゾラン・ジヴコヴィチ ファンタスチカ》という企画も、その繋がりで生まれたものと思われるが、その一冊目のテーマが“本”というのがまたいいではないか。

「仮想の図書館」
「自宅の図書館」
「夜の図書館」
「地獄の図書館」
「最小の図書館」
「高貴な図書館」
収録作は以上。書名から各作品の題名に至るまですべてが“図書館”絡みだが、実際の内容はもう少し幅が広く、上で書いたようにテーマは“本”と見るぐらいが適切である。どれも本に関連した、ちょっと不思議な出来事を描いた作品が六篇収められている。
以下、簡単ながら各作品のコメントなど。
「仮想の図書館」は、あらゆる本が揃っているという謳い文句のサイトへアクセスした小説家の話。すぐに自作を勝手にアップされていることに気づくが、もっとおかしなことは自分の書いたことがない作品も紹介されていることであり、さらには自分の没年までもが何種類も示されていた……。著者の問いかけはどことなくユーモラスだが、かなり意地が悪い。
「自宅の図書館」は、なぜか郵便箱から何度も出てくる本を、何度も往復して部屋に運び込む男の話。知と痴はまさに紙一重。個人的に昨年、引っ越しをして、同じように何度も本を運んだ経験をしたばかりなので、これは身につまされる。
「夜の図書館」はマイ・フィバリット。閉館後の図書館に閉じ込められた男は“夜の図書館”に遭遇し、そこで自身のすべてを書かれた本を紹介される。事細かに描かれた自分の人生を読み始めた彼は、これを現実のこととして無理やり消化しようとするのがミソ。
文字どおり“地獄の図書館”を描いたのが「地獄の図書館」。読書が罰という、まるでコントのような内容だが、当然その裏にはエセ知識人や教養主義にアッカンベーをそいて笑っている著者の姿がある。
「最小の図書館」は開くたびに内容が変わる不思議な本の話。これは本そのものの価値だけでなく、さまざまな媒体の価値を問うている話でもある。現代の寓話っぽい。
「高貴な図書館」は自分を高尚な読書家と自認する主人公が、蔵書の中にペーパーバックを見つけ、それを捨てようとするがなぜか元に戻ってくるという話。なんといっても主人公の解決方法がキモで、著者のドヤ顔が目に浮かぶようだ(笑)。
奇妙な味の類かと最初は思っていたが、最後まで読み終えると、むしろ意外にストレートな幻想小説という印象であった。といっても変におどろおどろした感じはなく、奇妙な話をユーモラスかつさっぱりした語り口で描いている。
何より、本や図書館をモチーフにするという企画・構成が楽しく、適度に考えさせ、適度に楽しませるバランスもちょうどいい。セルビアの幻想作家と聞くと少し構えてしまいそうだが、実は広くオススメできる作家であった。