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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


Posted in 04 2002

ドナルド・E・ウェストレイク『その男キリイ』(ハヤカワ文庫)

 昨晩の雷雨が雲を吹き飛ばしたせいか、朝から気持ちよい晴天。しかし風が恐ろしく強い。午後から仕事で横浜に行ったのだが、訪問先のビルにある駐輪場はとりわけ強風地帯で、五十台近くの自転車がきれいに将棋倒し。なかなかの壮観だが、誰かのいたずらじゃないよな?

 さて本日の読了本はドナルド・E・ウェストレイクの『その男キリイ』。先日読んだ『やとわれた男』同様、ウェストレイク初期のハードボイルドのひとつであり、それなりの期待を込めて読む。

 主人公は大学で経済学を学びつつ、実習生としてある労働組合で働くことになったポール。小さな田舎町から組合の組織作りを依頼された上司キリイとともに、現地に赴いた。ところが到着早々に依頼者が殺されるという事件が起こり、二人は容疑者として逮捕されてしまう。その後なぜか一人釈放されたポールだが、事態はさらに混迷を窮めていく……。

 読み終えてまず感じるのは、とにかくウェストレイクは登場人物の造形が絶品であるということ。ハードボイルドとはいっても、今回の主人公ポールはまだ学生。仕事や将来に希望を持つ若者であり、その視線はまっすぐ前に向けられているが、世慣れていないその行動は甚だ心許ない。
 こんな主人公の設定だとともすれば青臭さばかりが先に立って(ま、実際、青臭いんだけど)ハードボイルド本来の面白みとはかけ離れてしまうのだが、そこを逆手に取って主人公の言動に説得力をもたせ、物語に深みを与えている。

 脇役もいい。ポールが拘留されたときに話し相手になるウイリック警部、組合の用心棒として派遣されてきたジョージ、キリイの上司にあたるフレッチャーなどなど。

 そして何といっても、原題にもなっている上司のキリイだ。ポールの目から見たキリイは人間的な魅力にあふれ、理論だけでなく仕事もできる男として描かれる。ポールが尊敬するといってはばからないほどの人間だ。ところが物語が進むにつれ、その本性が少しづつ明らかになる。ポールの目から見たキリイ像、そして読者の目から見たキリイ像が次第に変貌していく様は、予想できそうで予想できない。
 ミステリを読み慣れた者なら何となく予想できたつもりになる。ついでに言えば、事件を通して主人公が成長してゆく物語であろうということも想像できる。
 ところがウェストレイクはその予想を微妙にかわしてくれる。この辺の加減と最後のかわし方が絶妙なのだ。実は事件の謎自体はそれほど深いとは言えない。しかし小説そのものがある種の仕掛けをはらんでおり(そんな大げさなものじゃないんだけどね)、ラストで『キリイ』という原題の意味に気づいたとき、何とも言えぬ余韻を残すのである。傑作。
 
「あんたら頭のいい若者は、出世するためには何でもしようとする。でも本当はそうじゃない。あんたらは仕返しのために何でもしようとするんだよ」byジョージ


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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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