国枝史郎の『国枝史郎ベスト・セレクション』読了。
これを読んでしまったら、手軽に読める国枝史郎の持ち駒が無くなっちゃうので結構悩んでいたのだが、結局誘惑に負けて読んでしまう。未知谷のやつはさすがに通勤には向かないしなぁ(笑)。通勤用に講談社から出た文庫版全集を読む手もあるが、如何せん、そっちはまったく持ってないのでどうにもならん。
「八ケ嶽の魔神」
「妖虫奇譚高島異誌」
「弓道中祖伝」
「日置流系図」
「大鵬のゆくえ」
「レモンの花の咲く丘へ」
収録作は以上。
「八ケ嶽の魔神」は先日読んだばかりなので今回はパスしたが、なんでこんなメジャーなやつを入れるかな。だがよく考えたら大衆文学館だって全部品切れなのだ。ということは今手軽に読める長篇は本書の「八ケ嶽の魔神」だけということになる。うーむ。なんてこった。
ところで本書の目玉は(すべてが目玉と言えば目玉だが)戯曲ではあるが国枝史郎のデビュー作「レモンの花の咲く丘へ」。なんと百年ぶりの復刻ということで、レア度からいうとダントツらしい。しかし、このいかにも大仰なセリフ回しに馴染めず、個人的には「大鵬のゆくえ」が一番気に入った。長さからいうと中編クラスだが、ぐいぐいと伝奇ロマン的に盛り上げつつ、ラストは意外な結末を披露してくれる。力で押すだけでなく、こういう技もあるのかと感心した一篇であった。