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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


Posted in 10 2004

ヘンリー・ウエイド『塩沢地の霧』(国書刊行会)

 またまた台風上陸。しかもあれだけ被害を出してきた今までの台風以上に大型らしい。もうムチャクチャ。今年は暑すぎるか台風のどちらかしかないような気がする。

 ヘンリー・ウエイドの『塩沢地の霧』読了。
 海辺の村ブライド・バイ・ザ・シーで暮らすパンセル夫妻。夫ジョンは売れない画家だが、夫婦力を合わせ、その日その日をなんとか乗り切っていた。そこへ現れたのが、売れっ子の小説家ダラス・ファインズ。ロンドンの喧噪を逃れ、執筆のために村へやって来たファインズだったが、生来の女好きの血が騒ぎ、ジョンの妻にアプローチを始めてしまう。単調な村の生活はファインズの行動によって静かに波立ち、そしてある深い霧の夜、塩沢地へ姿を消したファインズが、湿地帯で死体となって発見された……。
 渋い。実に渋い。オーソドックスな本格探偵小説とは少し違うが、これは紛れもなく英国ミステリの良き見本である。事件が発生するまでの長さ、それほど驚きもしない結末など、ミステリとしての弱点をいくつも抱えているはずなのに、読後はいいミステリを味わった、という充実感でいっぱい。
 ブライド・バイ・ザ・シー、そしてそこに住む人々の暮らし。肝はこの二つだ。両者をあせることなく丁寧に書き込むことによって(そのくせクドくはない)、この事件が起こるべくして起こったことを読者に伝える手腕は見事。また、普通なら生臭くなってもおかしくない素材なのだが、ウエイドはあくまで抑えて描写することで、逆に効果を上げているようにも思う。ラストも実に印象的。
 要はトリックやロジックばかりがミステリじゃないよ、というお手本のような作品なのだ。しみじみとしたミステリに飢えている人にはお勧め。


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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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