やれやれ、パソコンが遂に修理完了との知らせ。といっても本日は仕事のため、相方に受取を頼む。夜は復活したパソコンで、ここ一ヶ月弱の間にたまった日記や購入書の記入に明け暮れる。
読了本はマージェリー・アリンガムの『検屍官の領分』。またまた論創海外ミステリである。
第二次世界大戦中の話。極秘任務を終えて一時ロンドンに戻ってきたアルバート・キャンピオンが、明日から始まる休暇を楽しみにしながら入浴していたときのこと。部屋の外で何やら不審な物音がするではないか。浴室を出たキャンピオンが見たものは、ベッドの上で横たわる見知らぬ女性の死体であった。しかもその死体を運んできたのはキャンピオンのかつての使用人と、高名な公爵夫人。いったい二人は何をしようとしているのか……?
『検屍官の領分』は戦時に書かれた作品で、物語も戦争真っ直中の出来事。大戦中にミステリを書くことを禁じられていた某国とはえらい違いである。民族性の違いゆえか、この大きな差にはいつもため息をつかされてしまう。
それはさておき。本作でポイントとなるのは、戦争を単なる演出として描くのではなく、しっかりミステリのネタとして組み入れているところであろう。すべての戦争映画のテーマは、戦争の悲惨さを訴えることである、という言葉を何かで読んだことがあるが、すぐれた戦争映画は同時にそれだけではない魅力も備えている。ドキュメンタリーの記録フィルムでもない限り、映画は観客に観てもらってなんぼだ。戦争の悲惨さ以外にも観るべきものがなければ、人はお金を払って映画館には足を運ばない。
そしてそれはミステリにも言えることだ。
本書で語られる物語も、戦争をミステリに取り入れていることには成功していると思う。ただ、残念ながら、ミステリとして肝心の、謎解き部分がもうひとつ弱い。探偵役のキャンピオンも活躍しているとは言い難いし、事件の方で勝手に動いているような印象だ。アリンガムの作風は後期に入ってシリアスに転じたとされているが、本書も戦争という重いテーマを扱ったため、作者がミステリ的な興味に走る意思がなかったのかもしれない。なお、序盤に次々と繰り出してくる登場人物の多さにもちょっと閉口したが、これはついていけないこっちの頭が悪いのかもしれない。