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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


Posted in 09 2005

ビル・S・バリンジャー『歪められた男』(論創海外ミステリ)

 業界のイベントで幕張へ。体調がいまいちなのでこの距離は辛い。家から直行だと2時間はかかるからなぁ。だが珍しく車中では爆睡もせず、ひたすら読書。さくっと読み終えたのが、ビル・S・バリンジャーの『歪められた男』である。

 交通事故から目覚めたとき男が見たものは、左右が非対称の、不気味で無機質な顔であった。いくつかの所持品などから、周囲は男をワイアット・ケイツという空軍少佐として扱うが、男は自分が別人であることを知っていた。だが、男は事故の秘密を探るべく、そのままケイツとして行動する。そして徐々に男の周囲にある陰謀の陰が浮かび上がる……。

 物語の設定からいうとスパイものだが、テイストはハードボイルドのそれに近い。冒頭から提示される、「主人公は何者か?」という問いかけがもちろん本書の肝なのだが、それは身分や職業という表面的なことばかりでなく、文学でいう「自分探し」みたいなものも含まれている。主人公の正体はもちろん気になるが、主人公がどういう考え方をする男なのか、どういう行動を選択してゆくのか、そんなところに注目するとより楽しめる作品だ。
 欠点はとにかくわかりにくいことか。ただでさえ複雑な設定の話なのだが、読者を煙に巻こうとしているのか構成があざとく、かなり作為的。そして残念なことにそれが功を奏していないのである。この短所が決して小さくないだけに、ラストでずいぶん真相の説明にページをとる羽目となり、これが何ともとってつけたようで白けてしまう。もう少し丁寧に流れのなかで読者に理解させるようにすれば、けっこう良い作品になったと思うのだが……残念。


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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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