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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


Posted in 10 2005

飛鳥高『青いリボンの誘惑』(新芸術社)

 人間ドック後の再検査の結果を聞きにいく。まあ、結果は良好でひと安心だったが、最近は病院へいくことが多すぎて、なんだか自分でもよくわからないときがある。来週の月曜などは二軒の病院をハシゴだから嫌になる。

 読了本は飛鳥高の『青いリボンの誘惑』。著者が六十九歳にして久々に発表した長篇であり、今のところ最後の長篇でもある。

 人生においてある程度成功を収めたものの、いま病院のベッドで横たわる老人がいる。彼は折り合いの悪かった息子、裕を呼び出し、過去に会ったある事件の関係者のその後を調べてほしいと言う……。

 事件の依頼者が親、という点を除けば、まるで一昔前のハードボイルドのような設定で始まる物語。だが冗談抜きに、本作は甘口のハードボイルドの趣を備えた作品である。設定やテーマはもちろん主人公、裕の行動や意識にもそれがうかがえるほか、全体的に抑え気味の筆致も雰囲気を助けている。もともと社会派としても見られているうえ、派手な作風の人ではないから、このような設定の話にすると自然ハードボイルドっぽくなったのかも。このタッチ、決して悪くはない。
 残念ながらミステリとして評価するとそれほどの驚きはない。また、若者の描き方が少々古くさいなど、いくつかの傷はあるのだが、過去の事件と現在への流れ、それによって変化する人間関係のもつれなどを丁寧に描いており、作品世界をしっかり構築しているところはさすが。叙情的なミステリが好きな人なら読んでおいて損はないだろう。
 ちなみに版元の新芸術社は、今の出版芸術社。これってまだ現役本なのかな?


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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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