本日の読了本は城昌幸の『死者の殺人』。かつて桃源社から刊行された「書下し推理小説全集」からの一冊だ。
大学教授の後藤要助の元へ、古い友人、山座仙次郎から手紙が届けられた。それによると知人は癌のために危篤の状態であり、なぜか自分に遺産を相続してほしいというのだ。要助はひなびた温泉街にあるという仙次郎の家を訪ねたが、なぜかそこには家の者の姿が見えない。そしてその代わりとばかり、要助以外にも遺産を相続するという手紙を受け取った者が続々と集まりつつあった……。
遺産相続に集まった人間が一人、また一人と倒れてゆくという物語。いわゆる「嵐の山荘もの」だが、物理的には建物からの出入りは自由。ただし、遺産を受け取るためには臨終に立ち会わなければならないという縛りを設け、精神的な「嵐の山荘もの」にしたところが独創的といえば独創的だ。だが、やはりスリルという点で数段落ちるのは致し方あるまい。また、ストーリーの前半がほぼ要助の視点で語られているのに、途中から微妙に視点が統一されなくなり、構成的にもひどく中途半端なものがあるのもマイナス点。おまけにメインのトリックと犯人がこれでは……。
早い話がこれは完全な駄作。本書は今は無き桃源社からの刊行なので、もちろん現在では古書店でしか入手することはできない。城昌幸の数少ない長篇ミステリということで、ファンなら気になる作品ではあるのだが、それなりの値段(といっても数千円で入手可能)を払ってでも読むに値するかとなると、ちょっときついだろう。