ポスト黄金時代を代表する英国本格作家の一人として挙げられることが多いマージェリー・アリンガム。だが、決してアリンガムの作品すべてが本格というわけではなく、有名な『霧の中の虎』のように、スリルとサスペンスで引っ張っていくものもあることはよく知られている。
本日の読了本『殺人者の街角』もそんな例外的な一冊で、探偵役のキャンピオン氏は登場するもののほとんど脇役扱い。殺人者そのものを主人公的に扱った異色の作品である。
冷酷な殺人鬼が一歩一歩追いつめられていくサスペンス風味の作品だが、著者の眼は最終的にその殺人鬼をかばおうとする叔母に向けられており、このあたりがアリンガムが文学的と称される所以であろう。
ただ、本作においては警察の動きと、殺人鬼の動き、そして事件に巻き込まれる主要人物たちの動きがうまく調和しておらず、とてつもなく構成がアンバランスな印象を受けた。ポイントが散らばりすぎるのでサスペンスも盛り上がらず、おまけに読みにくい。正直、これがなぜCWAのシルヴァー・ダガー賞を受賞できたのかはちょっと理解に苦しむところだ。
叔母の心理が読みどころだとしても終盤だけではちょいと弱いし、それなら最初から叔母にポイントを絞って描いた方がよかったのではないだろうか。いまいち。