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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

ピーター・ディキンスン『キングとジョーカー』(扶桑社ミステリー)

 いろいろとグダグダしていて、久々の感想UP。ものはピーター・ディキンスンの『キングとジョーカー』。ミステリ者にとっては、高値絶版サンリオSF文庫の中でもとりわけ気になる一冊であったが、昨年末に扶桑社より復刻されたのはまだ記憶に新しいところ。まともに古書で買うと軽くン千円はするので、文庫一冊にそれはなぁ……という気持ちが先に立ってなかなか買えなかったのだが(そのくせ新刊では気にせず大人買いしたりするのだが、この辺の心理は自分でもよくわからん)、いやいや我慢してよかった。

 それはともかく。
 ピーター・ディキンスンのミステリといえば、とにかくその奇抜な世界観、舞台設定がウリである。
 本作もその例にもれず、なんと英国王室を舞台にしたミステリだ。しかもディキンスンはそこをさらに捻る。現代の英国王室を舞台にするだけでもかなりのものだと思うが、現実の王室とは異なる家系をたどった王室を仕立て上げ、そこで起こった怪事件を展開させてゆくのである。
 発端からして目が離せない。王女ルイーズは朝食の席で、王である父が秘書と愛人関係にあることに気づいてしまう。動揺する王女だが、たたみかけるように起こる大騒動。なんと食事の皿にガマガエルが隠されていたのである。ジョークはさらに続き、王室警察を煙にまく。

 とにかく英国王室とはいうものの、ディキンスンが勝手に作った世界である。しかも劇画化された登場人物、頻発するジョークは、『不思議の国のアリス』もかくやというファンタスティック・ワールド。まずはその世界観を頭に入れることが先決である。
 で、ここさえ乗り切れれば、他のディキンスン作品よりはかなり読みやすい。実はけっこう本格的な謎解きでありながら、ファンタジーの味わいも多分に含んでいるため、柔らかな印象を受けるのである。これは訳文のせいもあるだろうし、王女を主人公として、その目線でロイヤルファミリーの生活をのぞきみさせているという構成も大きいだろう。
 もちろんこの世界観も、ただの野次馬的興味だけで作られているわけではない。ウルトラC級とまではいかないものの、この設定だからこそ成立する謎と真相をしっかり提示してくれるのも見事。

 とにかく一般にはなかなかオススメしにくいピーター・ディキンスンではあるが、本書はディキンスン入門書として最適であろう。だが、本書以降、ディキンスンの何を読むかと聞かれたら、かなり困るんだけど(笑)。


プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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