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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


Posted in 10 2007

リチャード・マシスン『奇術師の密室』(扶桑社ミステリー)

 リチャードつながりでもないが、本日の読了本はリチャード・マシスンの『奇術師の密室』。

 この小説、まず設定が奮っている。
 実質的な登場人物は何とわずか6人だ。父から偉大なるデラコートの名を継いだマックス。その妻カサンドラ。カサンドラの弟ブライアン。マックスの友人でありマネージャーでもあるハリー。保安官プラム。
 そして忘れちゃいけない物語の語り手であるマックスの父、エミール。ただし、彼は事故で全身不随となった植物人間である。できるのは見ることと聞くことぐらいであり、いわばこの物語の登場人物でありながら、まったくの第三者として、この物語を描写する。
 動くこともできないのに、事件を説明することができるのか? そんな疑問もあるだろう。でもご安心。物語の舞台となるのは、マックスの自宅にある仕事部屋であり、全編ほぼこの部屋でストーリーが進行する。つまり本作は一幕物の芝居のような作品であり、エミールは常に出ずっぱりの状態なのである(ちなみに邦題にある密室とは、密室劇のことなので念のため)。
 この特殊な舞台設定のもと、登場人物は異常な緊張関係の中に放り込まれ、読者はエミールと共に悪夢を見物することになる。

 とにかくケレン味たっぷりのミステリである。冗談抜きで、ページをめくるのがもどかしいほどリーダビリティは高い。読者を驚かすことだけに集中しているというか、いささかやりすぎの嫌いがあり、正直、終盤のどんでん返しの連発はこちらの神経が麻痺してしまって、もう何が起こっても驚かなくなるくらいだ(苦笑)。
 しかし何より最大の驚きは、マシスンが齢七十近くにして、このような稚気溢れる作品を残していることではないだろうか。
 フェアだとかアンフェアだとか、そんなことには目くじら立ててはいけない。本書はただただマシスンが吹く大ボラに心地よく欺されるための一冊なのだ。


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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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