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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


Posted in 05 2008

日影丈吉『女の家』(徳間文庫)

 日影丈吉の『女の家』を読む。印象的なミステリを多く残した著者の作品群の中でも、とりわけ叙情性にあふれた傑作のひとつである。

 女の家

 銀座の裏通りにある一軒家で、主人の雪枝がガス中毒によって死亡した。雪枝は実業家である保倉の妾で、一人息子の幸嗣、そして三人の女中と共にひっそりと暮らしていた。所轄の小柴刑事は調査を開始するが、雪枝はかつて息子の家庭教師と不義の関係にあり、自殺未遂の過去もあったことが判明。いったんは自殺として処理を行うが、事件当夜に付近でガス工事があったという情報から、意外な展開を見せてゆく……。

 ううむ、これはいい。もともと世評の高い作品ではあるが、個人的な好みでいっても『応家の人々』や『孤独の罠』に匹敵するかそれ以上の読み応えがある。
 純粋にミステリ的興味を追求すると、実はそれほどのものでもないし、真相を予測するのも難しいことではない。やはり本書の胆はその語り口にある。さほどドラマティックとも言えないこの事件。しかし、その奥に秘められた真相は物悲しく、そこに到達するまでの人々や家族の情景がしっとりと綴られていく。まさに著者が好んだフランス・ミステリのタッチを、そのまま日本に置き換えたような作品で、独特の湿っぽさ、艶っぽさがとにかく味わい深い。
 構成も見事。本作は小柴刑事と年長の女中の一人称が交互に繰り返されるという結構を持ち、刑事のパートでは事件の進展を促し、女中のパートでは過去の因縁を少しずつ明らかにする。殺された被害者を回想シーンのみによって描くという手は、ミステリでは度々使われるが、そこで明らかになるのは事件の謎などではなく、人そのものだ。そのときどきでの女中の視点・心理は、妾である雪枝という女の存在を、じわじわと「炙り出し」のように浮き上がらせるのである。
 全集などではなく、ぜひ文庫として復刊しておいてほしい一作。


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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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